4回目の今号では、第5章・第6章を紹介する。
第5章「『遊び』の世界と不平等の再生産――ライフスタイルから見た若年失業・フリーターの析出」では、若者の「遊び」の世界を手がかりに下層の再生産がプロセスを描かれている。
調査対象となった彼・彼女達の中には、早い者では小学校高学年から「学校に行かずに友達と遊んでた」と語る者がいる。こうした「遊び」の世界に早期に参入していくメカニズムを考える際、「こんなことをしていていいのか」という内面からのリスク感・リスク計算が働かないことを要因としてあげることができる。「遊び」の世界への参入を阻もうとする親の働きかけ、コントロールは、一貫性や見通しに欠けるなど内容面の課題、説教の押し付けや繰り返しとなるなど方法面での課題があり、子どもの側の反発となって返ってくる。また教師による「引き止め」の働きかけは生徒指導としてなされるが、やはりこれも説得力をもって伝えられてはおらず、反発を生み出してしまう。
また、不安定、困難とも思える状況は、当人達にとっては当たり前のものとして受け止められているようで、将来のために現実を変えるための生活の組織化、戦略が見られないことが特徴である。
彼・彼女達はモデルの限定性と「引き止め」の機能不全の故に再生産過程の中にあり、「社会的排除」と呼ぶべき状況に置かれている。こうした事態を予防し、あるいは危機に陥った若者を救うための方策が構想されねばならない。実効のある「引き止め」のロジックを探ることなど有効な対策を導くためには、「遊び」の世界や彼・彼女達の内面にさらに迫ることが不可欠である。
第6章「強い紐帯の弱さと強さ―部落出身の若者の失業・フリーター問題に関する考察」では、部落出身の若者に焦点化し、彼・彼女らが失業・フリーター状況に至る過程について分析が行われている。
第一に、部落差別との関連については、差別の存在を認識することによって、進路選択に重大な影響を与える事例が見られた。他にも差別に対する不安が語られる事例などから、彼・彼女らにとって部落出身であることは様々な契機において行為に影響を与えるような意味づけがなされていることが示唆される。
第二に、相対的に強固であるとされるムラ(部落)ネットワークが、部落出身の若者の就労に大きな影響を与えていることが明らかとなった。ムラネットワークによる就業のための情報は同質的な情報に限られており、結果としてフリーターなどの不安定就労に結びついていた。しかしそのことは正職として就業できないからフリーターになるというネガティブな意味合いではなく、そもそもそのような情報に対するアクセスの機会が「低学歴」「低階層」または「差別」によって極めて不利な立場におかれている若者を、不安定就労ではあるものの就業に向けて包摂する機能を果たしていたのである。
このような強い紐帯を育んできた要因として、調査対象地域に見られるような子育てを中心とした運動があげられる。学校から排除され、就業へのチャンスを奪われた若者にとって、家族・親族や地域ネットワークは大きな資源であり続けている。彼・彼女らにとっての「人間関係」=ネットワークという資源を、いかに維持・再編・創造していくのかが問われている。