本書は、全国各地における「まちを舞台」として、仲間を集め、自らのアイデアを生かしているたくさんの人物を登場させ、それぞれの具体的な事実から普遍性を抽出して「まちづくり」の成功要因を探ろうとしている。
書名に出てくる「地域人」とは、それら登場人物を抽象化した表現である。著者は、地域人の共通項として、意識的に「まち」を中心として、遊びやビジネス、「環境」への取り組み、景観づくり、そしてその全部といったものをかかわらせながら、人びとのネットワークづくりを進めており、新しいタイプの「地域共同体」づくりの動きであると説明している。具体的な紹介事例は、兵庫県龍野市など播磨地域、北海道帯広市、滋賀県長浜市、福島県会津若松市、福岡県久留米市などで、他のまちづくり関係の書籍やマスコミでも紹介されたりしている地域もいくつか含まれている。
本書の前半部分はこれら事例が紹介されているが、後半部分は都市の景観、都市計画、空洞化した中心市街地の活性化などについてまとめられている。大学で「地域活性化論」を講じる著者の研究者としての問題意識がうかがえる部分である。
紙面の関係でとくにコミュニティビジネスと関係して興味を惹かれた点について述べてみる。帯広市の事例の「北の屋台」という駅前の屋台村について。地元青年会議所メンバーが中心となって設立した協同組合によるコミュニティビジネスであるが、屋台村開業までに実にしっかりとした事業計画が練られている。地元の豊かな食材の活用、同一業種を2軒までに抑え、水道、電気、ガスの配置工夫や車椅子でも利用できるトイレなども設置されていたりして各地の屋台村の研究からの新しい試みもみられる。定例会議を開催して各店の客数や売上額などのデータを公表しながら、常に屋台村全体としての問題意識を共有している。ビジネスでは当たり前であるが、成功を支えている努力と向上心がよくみえてくる。
アメリカのコミュニティ・バンクについて。アメリカでは、低所得層やマイノリティをはじめとする一般の銀行から金融サービスが受けにくい人びとに援助(融資)をする機関がある。市民意識の育ち方や市民運動の広がり、法律、など日本と異なっていることが多いが、地域経済を育て、それによってより安定した融資先を広げていくという仕組みは中小企業や部落産業を育てていく上でも有効な手段のひとつではないかと思う。
本書は、人権のまちづくりにおけるコミュニティビジネスについていろいろと示唆を与えてくれる内容であった。新しい「地域共同体」の確かな展望とともに、そこにいたるしっかりしたコンセプトとプラン、次のサイクルにむけての研鑽や苦労、地域での「起業」の厳しさや困難さも見え、単純に地域活性化がされるものではないのである。キーワードとなるのは「地域の人的資源・資産」と「人と人とのネットワーク」となるだろうか。また、「地域人」によって全体として「まち」が活性化したのはよくわかるのであるが、本の構成上しかたがないとはいえ、それぞれにおいて「まち」に住む人びと、例えば高齢者や子どもなどの姿が今ひとつ見えてこなかったのが残念といえば残念であった。