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2005.02.14
書 評
 
内田 龍史

部落解放・人権研究所 編

結婚差別の現状と啓発への示唆 (第2回)

A4判 219頁 頒価2000円

 今号では、報告書の第1部「通婚と結婚差別の実態」および第2部「通婚カップルへの聞き取り調査から」の前半部分にあたる第2章・第3章の紹介を行う。

 第1部第1章「通婚と結婚差別」では、部落-部落外のカップルの割合(通婚率)が一貫して増加している一方で、結婚に伴って差別を受けた人の割合は数十年間変わらないかもしくは増加していることが示される。つまり、差別解消の指標であった通婚率の上昇とともに、被差別体験の割合も上昇するという、一見矛盾したデータが見受けられるのである。

 筆者は、このような状況を以下のように解釈する。通婚率の上昇は、部落マイノリティと部落外マジョリティの結婚に至るまでの出会いのチャンスが上昇したという意味で構造的な差別の解消を意味している。他方、被差別体験の増加は、行為としての差別の増加を意味している。すなわち、一定の割合で差別する人が存在する中での出会いのチャンスの増大によって、被差別体験は増加することとなる。

 このように、通婚率と被差別体験割合は、結婚差別をとらえるための指標として別の位相に位置していることが整理され、最後に、より被差別体験に関する研究に重点を置くべきであるとの問題提起がなされている。

 第2章「結婚差別の多様な現実」では、従来啓発冊子などに示されていた結婚差別は<1>部落出身者との結婚に対する強い反対がみられ、<2>その反対に対して、イ)説得のうえ反対を乗り越え結婚する、ロ)説得できなかったが2人は結婚する、ハ)強い反対のため結果として2人はわかれてしまう、というパターンに分類されるものの、通婚カップルに対するインタビューから、実際に生じる結婚差別は多様な形であらわれることが示されている。

 結論として、<1>結婚差別問題に対する一面的な悲観論、楽観論を抑制すること、<2>結婚差別問題を乗り越えていく道筋は、さまざまな条件の中で個々具体的に切り開かれていることを知り、結婚差別問題の乗り越えの具体的な見通しを確かなものすること、などが提言されている。

 第3章「結婚差別の乗り越え方」では、様々な通婚事例を、部落出身であることの「顕在-潜在」、部落外マジョリティの「結合-分離」という2つの軸にそってパターン化し、そのうえで、結婚差別が生じない条件、結婚差別が生じた場合にそれを乗り越える条件について考察がなされている。

 検討の結果、結婚差別が生じない条件としては、部落出身であることが顕在化しないこと、例え顕在化した場合にも部落外の当事者が「部落出身」であることに重要な意味づけを行わないこと、結婚に至るまでに部落出身者と肯定的なつき合いがあること、などがあげられている。また、結婚差別を乗り越える条件としては、前提としてのカップル間の愛情、部落外の親子の互いに自立した関係性、反対する相手に対して説得できるような知識・能力を身につけておくこと、とくに強い反対がある場合には「部落出身」であることを相手に応じて顕在化させないこと、などの戦略が提起されている。

 次回は、第2部の後半を紹介する。