今号で本報告書の紹介は最終回となる。
今号では、報告書第III部「結婚差別事象を用いた学習に向けて」を紹介する。第III部は、実際に学校現場で用いられている結婚差別事象の教材を素材とした授業展開と、教材そのものの検討が行われる。
第6章「授業としての「同和」教育」では、「同和」教育から「人権」教育への転換期を迎えるなかで求められる、「同和」教育に関する考察がなされる。具体的には、文部省の『道徳教育推進指導資料』に掲載されている、結婚差別を題材とした教材である「峠」を取り上げ、その授業実践が検討される。本書第II部「通婚カップルへの聞き取り調査から」で示されるように、現実の結婚差別は多様であり、乗り越え方も人それぞれである。そのような現状を踏まえると、結婚差別を題材とした教材から、様々な場面を想定した厚みのある議論を行うことにより、実際の差別に直面したときに即断することなく立ち止まって考えることができるようになる下地が形成される、との指摘がなされる。
第7章「結婚差別をめぐる相談事例と教材つくりの課題」では、はじめに、結婚差別をめぐる市民意識の変容を概説し、結婚差別意識の主要因を「差別される側にくみこまれることへの恐怖・不安」と整理される。
続いて、筆者が相談相手として関わった結婚差別の当事者の状況から、結婚差別問題については、(1)結婚差別問題を考える前提としての恋愛・結婚についての予備的認識、(2)恋愛・結婚による新しい関係つくりの段階、(3)結婚後の関係の発展という3段階にわけてそれぞれに具体的な取り組みが必要であることが提起される。
これらの問題意識から、学校教育で用いられている結婚差別をめぐる教材に対して大学生を対象とした調査を行い、その評価に基づいて今後の教材開発に対する示唆が行われている。最後に、高校・大学・成人学習を意識した教材つくりが重要であるとの提言がなされる。 (内田 龍史)