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2005.06.17
書 評
 
李嘉永

足達英一郎・金井司著

CSR経営とSRI 企業の社会的責任とその評価軸

A5版 180頁 定価(本体1,900円+税)

 企業の社会的責任(CSR)や社会的責任投資(SRI)の実施に関しては、今日、多くの実践ガイドブックが公刊されているが、本書は、この分野において早くからCSRの導入を推進してきたシンクタンク研究員と年金運用の実務家によるものとして、極めて重要な意義を有する。

 第1部では、CSRの意義と、執筆当時の動向について解説されている。欧米やISOにおける議論動向が述べられた後に、日本企業には一定の「戸惑いの声」があることを率直に指摘する。しかしこの声に対しては、日本企業が、製品市場や労働市場、さらには資本市場のグローバル化に直面することはCSRの導入が避けられないものであることを端的に主張する。そしてその上で、具体的なCSR導入の段階を「方針の明確化→トップのリーダーシップ確立→CSR推進体制構築→マネジメントシステム運用と留意点」という形で整理し、戸惑いの声に助言している。

 第2部では、SRIの意義とその広がり、そして実際の運用プロセスや企業評価の実務について解説されている。企業への投資判断に社会性を加味することが、そのリターンとの関係でどのような意味を持つか、という根本的な問題について、著者は確定的なことはいえないとし、バックテスト(CSRを評価軸としたインデックスを作成し、それを過去に遡って株価変動を通常の指数と比較すること)の難点を指摘した上で、なお多くのSRIインデックスで通常よりも良好なパフォーマンスが期待しうること、さらに日本の投資家にあっても、SRIへの関心が生まれつつあることから、SRIの合理性を示唆している。投資家からの運用を委託されている関係上、SRIの運用にあたっては受託者責任を果たさなければならないとして、企業の選定プロセスにおいては、まず財務的なスクリーニングをかけた上で、CSR推進に関する企業調査が行われている様子が紹介されている。

CSRやSRI導入の細かな仕組みについては本書に譲るが、実務の基本的な枠組がコンパクトに整理されており、それぞれの内実が容易に垣間見ることができる好著である。CSR・SRI実務に関心をお持ちの方には、ぜひご一読いただきたい。