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2005.09.13
書 評
 
李 嘉永

斉藤 槙 著

社会起業家
―社会責任ビジネスの新しい潮流―

岩波書店 2004年7月21日 新書版 246頁 定価(本体780円+税)

 企業の社会的責任(CSR)に関連する著作は数多く、CSRの意義を説く専門書は、この間精力的に出版されてきた。また、企業にとっての導入ガイドの類は枚挙に暇がないほどである。しかし、このCSRを実際に遂行する人々の思いにスポットを当てる著作は、あまり多いとはいえない。その数少ないなかでも、ひときわ情熱的にこれら実践家の思いを紹介するのが、本書である。

 通常「社会起業家」と聞くと、社会的課題の解決をビジネスの手法で図るソーシャル・ベンチャーを連想するが、本書の興味深いところは、そのような「NPOのビジネス化」だけではなく、「ビジネスの社会化」にも注目している点である。つまり、営利企業に勤める人であっても、事業内容の工夫次第で、社会性を加味することが可能であり、実際にそのような事業に取り組む人々がいるのである。

 このような潮流を作り出した幾つかの条件として、著者はまず、企業のグローバル化を挙げている。主権国家に比肩するほどの経済力を持つに至った多国籍企業は、自然や社会に対して極めて大きな影響をもたらす。このことから、企業が負うべき責任の内容に、変化が生じたという。ステークホルダーの動向、特に消費者の購買動向も、企業の社会化を促す大きな背景となったとしている。

 もちろん、ここで「社会起業家」と総称される個々の人々が、実際に事業活動を進めるに当たって感じた違和感、社会に仇なす事業には荷担したくないという素朴な感覚を持っていたことも、重要なポイントであろう。他方で、ビジネス手法に違和感を覚える第一世代の悩みと、積極的な第二世代が感じるジレンマについての指摘も興味深い。だが、社会起業家の交流を保障する場の存在が、両者の掛け橋となっているとのことだ。

 社会起業家。この呼び名は、彼/彼女らを卓越した人々のように思わせる響きがある。しかし本書で紹介される人々は、決して超人ではない。自らの素朴な倫理観にこだわりを持った人々なのである。「誰でも社会起業家になれる。」本書は、このようなメッセージを発しているように思う。是非、ご一読いただきたい。