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2005.12.14
書 評
 
李 嘉永

部落解放・人権研究報告書

企業における人権尊重の取り組みの現状(1)

2003年度より、部落解放・人権研究所では、企業部会において、企業の社会的責任(CSR)に関する一連の学習会を開催し、さらに「企業評価指標研究会」での議論を通じて、企業に求められる人権の取り組みとは何か、という観点から、CSRとしての人権に関する企業評価基準の策定に取り組んできた。この項目に基づいて、2004年度にプレ調査を実施したところ、70社から回答を得た。その結果を分析し、概要を取りまとめたのが、本報告書である。

 第1部「企業の社会的責任(CSR)と人権」では、企業評価基準における人権の位置付けについて検討している。すなわち、これまでさまざまな機関がCSRとして求められている内容について、評価基準を策定してきた。そこでは、ほぼ例外なく「人権の尊重」が挙げられているが、その内容については多様である。企業が取り組むべき人権課題は、まずは労働問題であった。しかし今日、公害問題や開発に伴う生活基盤の破壊など、企業における事業活動それ自体が個人の人権を侵害していないかどうかが問題になっている。さらには、企業の本来業務によって生み出された商品・サービスが、人権の享有に資するかどうかも重要なテーマになってきている。社会貢献活動として取り組まれている寄付活動やボランティア休暇が、人権NGOにとって有効に活用されている状況も見受けられる。

 

ただし、企業による人権の取り組みの意義としては、単にコストの低減や、ブランドイメージの向上といった「人権尊重は、ペイする」という哲学よりは、「企業もまたその体力に応じたコストを人権課題について負担しなければならず、このことは社会に対する責任である」と捉えるべきだと指摘している。

 その上で、各種CSR調査における「人権尊重」の項目に関する国際・国内の動向を概観し、人権から見たCSR指標に関する次のような課題を指摘している。(1)トリプル・ボトムライン調査の量的制約、(2)CSRにおける人権課題についての共通理解の弱さ、(3)部落問題の欠落、(4)人権問題の量的把握の難しさ、である。このような課題を踏まえながら、より包括的かつ重要課題をクローズアップさせるような指標の策定が求められているといえよう。次回は、プレ調査の概要について、紹介したい。