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2006.03.28
書 評
 
李 嘉永

2005年12月10日発行 A5判 262ページ

 部落解放運動は、国際人権規約の批准促進運動以来、国際連合を初めとする国際場裏において、部落差別の実態や、部落問題解決の方策等について、働きかけを行ってきた。その経緯の中で、他国の部落問題類似の被差別当事者との連帯を強めてきたのである。そして、その集大成として、現在、南アジアのカースト制度、とりわけダリットに対する差別、西アフリカにおける類似の差別問題などが、一括して国際的な問題として取り上げられるに至った。それが、本書の表題にある「職業と世系に基づく差別」の問題である。

 現在進行中のこの課題について、国際社会で取り上げられるに至った過程が第1部において簡潔に示されている。特に、日本においては、1995年に人種差別撤廃条約の締結が一つの大きな節目となることから、それ以前・以後に分けて、記述されている。

 第2部では、部落差別や、他の「世系」差別の実態が示されている。部落差別に関しては、近代以降の主要な動向が紹介されており、部落問題の入門としても、極めて有用であろう。また、世界の実態は、まさに部落問題として挙げられる諸課題と共通することが見て取れるであろう。

 これらの実態を前にして、その撤廃のために、国際社会はどのように対応しているのであろうか。第3部では、人種差別撤廃委員会の取り組みとして、各国の国家報告書審査にかかわる実行と、「世系」に基づく差別に関するテーマ別協議、及びその結果取りまとめられた一般的勧告の意義が分析される。また、「職業と世系に基づく差別」に関する研究を進めている国連人権小委員会の取り組みについても、2001年のグーネスケーレ報告以降の各文書の概要がまとめられている。

 さらに、今後の課題として、第4部は、国際社会における戦略として、諸機関にどのような働きかけをしていくべきか、さらには、日本の法政策に対する提言が示されている。

 資料編では、「職業と世系に基づく差別」に関連する主要な国際文書が翻訳されており、資料的にも極めて有用である。この分野での国際法学的な文献としても、まさに必携の一冊であるといえよう。