2003年より、にわかに企業の社会的責任(CSR)が脚光を浴びるようになった。これは、社会貢献活動といった寄付行為に止まるものではなく、企業活動それ自体、すなわち本来業務において、社会性などを組み込むことを意味しているが、本調査では、特に本来業務との関連で、人権がどのように組み込まれているかという観点から質問した。この第7章は、その結果を分析している。
CSR方針を策定している企業は4割にのぼり(26社)、策定を検討している企業は17社である。今後一層の広がりが期待できるであろう。また、本来業務を活用した人権尊重の取り組みを実施している企業は18社であり、その内容としては、施設のバリアフリー化やユニバーサル・デザイン(UD)商品の開発、自閉症者の口腔衛生指導など、UD関連事業が多い。調達・取引基準に人権尊重を取り入れている企業は7社に止まっている。確かに企業数は少ないが、その積極性は評価されるべきであろう。
社内体制の整備については、16社が既に完了しており、検討中としているのは26社である。方針策定以降、体制整備の準備を行っている企業が若干存在することが認められる。CSR担当セクションを設置しているのは12社、担当者の最上位職階は役員が16社、部長相当職が2社と、高レベルの意思決定機関がCSR推進に関わっていることがわかる。
CSRないしは企業倫理方針の実施に関しては、その進展状況、特に社内への浸透状況を把握しておくことは、課題の明確化につながるのであり、PDCAサイクルの中でも、C(チェック段階)として重視されている。そのための意識調査を実施している企業は22社であり、倫理方針策定企業(57社)の4割に止まる。チェックに関する取り組みが若干弱いと指摘できよう。他方、内部監査を実施している企業は41社、外部監査が6社と、7割を超える企業が監査を通じてチェックしていることがわかる。
CSRの議論においては、その社会性や環境保護の取り組みの内容について、企業内部で議論するだけではなく、外部のNGO・NPOとの対話・連携を図りながら進めていくことが重視されている。というのも、より具体的な課題について、的確な取り組みを進めることが可能になるからである。本調査結果によれば(第8節)、部落問題に関わるNGOと関係を構築している企業が半数を占めている。また、障害者問題について14社、女性問題について8社が市民団体と連携していると回答している。その他、在日外国人、国際人権NGO、人権啓発などが挙げられている。
これまでみてきたように、企業内では、人権に関してさまざまな取り組みが行われている。そこで、これらの取り組みを積極的に社会に広めることがあってよい。このことにより、とりわけ差別を受けがちな人びとが、「この会社は私を差別しない」という安心感を得ることができるのである。そこで、第9節では、情報公開に関して質問した。
まず情報公開に関する方針の策定についてであるが、23社が策定しており、11社が策定中である。また、人権課題に関する情報の公開状況については、企業倫理・社会貢献に関しては、企業報告書(それぞれ21社)やホームページ(28社、21社)を通じて公開されているが、個別具体的な人権課題となると、それぞれ10社に満たない。実際の取り組み状況に比して、広報は低調であるといえよう。
さて、この間、5回に渡って「企業における人権尊重の取り組みの現状」を紹介してきたが、内容的にすべてを網羅しているわけではないし、調査の内容自体の課題も幾つかある。とはいえ、企業が果たすべき社会的責任としての人権の課題について、一定の集約ができたように思われる。各企業における今後の取り組みの一助となれば幸いである。