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2006.06.26
書 評
 
李嘉永

部落解放・人権研究報告書 No.2

『従業員の個人情報保護』の現状と、啓発の課題

(「労働者の個人情報保護」研究会2005年度報告書)

 当研究所では、2005年度、様々な調査研究事業に取り組んできた。その結果、2005年度末を目途に、各研究事業の成果を報告書として取りまとめたところである。
 これら報告書が一層普及することを企図して、それらの概要を掲載することとした。
 各報告書の購入を希望される方は、当研究所研究部(06-6568-0064)までご一報いただきたい。

 2005年4月1日に個人情報保護法が全面施行されて以降、各企業にあっては、主として顧客情報の管理につき、内部規程の策定や文書管理規定の見直し、社内体制整備について取り組んでいるが、法が射程においている個人情報はこれに止まらず、従業員情報も包摂している。従業員情報については、住所や氏名といった基本情報のみならず、賃金情報や資産状況、健康情報に至るまで、優れてセンシティブなものが挙げられる。

 また、採用段階において取得することによって、その採否に不当な影響を与えかねない情報もある。そのため、求職者を含む労働者が、その働く権利や、最低限の文化的な生活を営む権利を中心とする基本的人権を享有するためにも、従業員情報を適切に取り扱うことが重要である。

 本報告書は、411社の協力を得て、2005年に実施したアンケート調査及びヒアリング調査の結果を分析した。

 取得従業員情報については、8〜9割の企業が取得しているもの、4〜5割のもの、1割未満のものに概ね分類できるが、1割未満の情報(資産・債務状況など)についても、本人以外から取得している企業が存在している点は、懸念される。また、従業員情報の取扱規程、教育・研修については、6割未満となっており、個人情報一般に比べてやや数値が落ちている。

 他方で、責任者の選任に関しては、68%と、一般に比して高い。同意の取得方式については、7割の企業が個別に取得しているが、なかには包括的同意方式を採用する企業も15%ほど存在する。不採用者情報は、9割の企業が直ちに返却・廃棄するか、一年以内に廃棄している。複数年保存している企業は1割に満たない。他方で、退職者情報は、資格取得のための照会や、OB・OG会運営のために長期間保存する企業が多く、適正な管理が求められる。

 また、開示・訂正の請求については、一部ないし全部に応じている企業が合わせて9割となっており、2002年の調査結果に比して、改善が見られる。また、中小企業において、より精密に対応している状況が明らかになった。なお、開示に応じていない情報としては、人事関連情報を挙げる企業が多いが、その比率も2002年に比して改善が見られる。

 当該調査の結果を受けて、課題として浮き上がった点は、従業員情報の取扱いに関する対応がやや遅れていること、中小企業・取扱事業者非該当企業への浸透をどうはかるか、さらには、管理体制の実効性確保をどう進めるか、といったものである。

 また、ヒアリング調査の結果によれば、保護法やそれに基づく各種ガイドラインに沿って、各社の実情に合わせた従業員情報の取扱いに工夫をしている状況が明らかになった。中でも健康情報や人事情報の取扱いにあたっては、可能な限り本人の意向に沿って、丁寧に対応しているとのことである。ただし、療養後の職場復帰に関わって、就業制限が係る場合に、どのようにして同僚の理解・協力を得るかは、悩ましい点であることも示されている。

 上記以外にも、様々な論点についての現状を明らかにすることができた。それらについては、是非報告書本体をご覧頂きたい。