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2006.06.26
書 評
 
Y.K.

部落解放・人権研究報告書 No.5

人権教育の観点からの、キャリア教育

(「キャリア教育と人権」研究会2005年度報告書)


 当研究所では、2005年度、様々な調査研究事業に取り組んできた。その結果、2005年度末を目途に、各研究事業の成果を報告書として取りまとめたところである。
 これら報告書が一層普及することを企図して、それらの概要を掲載することとした。
 各報告書の購入を希望される方は、当研究所研究部(06-6568-0064)までご一報いただきたい。

 学校生活と社会生活との円滑な接続ができない若者が増加する傾向にある中、学校教育でのキャリア教育を通じて、子どもたちに職業観・勤労観を身に付けさせることが必要であるとされている。しかしながら、単なる能力育成指向のキャリア教育は、自己責任・自己選択という飾り言葉の下、子どもたちを容赦ない自由競争にさらす危険性も否定できない。

 本報告書の実践事例で紹介されている学校は、生活背景や学習歴に課題を抱えている子どもたちに、いかに「生きる力」を育み、働くことについて希望と意欲を持たせるかという課題について、積極的に取り組んでいる学校である。これらの実践は、これまで同和教育が培ってきた学力保障や進路保障の実践と重なる部分が極めて多い。学校が保護者や地域の協力を得ながら、正に地域ぐるみで「学校づくり」を進めているのである。

 このように人権の観点からキャリア教育を推進することは、能力主義に陥ることなく、子どもたちの自尊感情を高め、学ぶ意欲や働く意欲を醸成する上で極めて重要な観点と言える。文部科学省の「キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議報告」に謳われている「児童生徒一人一人のキャリア発達を支援」を実践するためには、人権の観点からのキャリア教育が必要なのである。

 また、本報告書では兵庫県の「トライやるウィーク」を含め、職場体験学習等の実践事例も紹介している。確かに、直接体験の不足しがちな現代の子どもたちに、短期間とは言え学校を離れて体験学習を行うことは意義が見出せよう。しかしながら、その目的と学ぶべき観点が不明瞭な体験は、子どもたちに「行って良かった、楽しかった」という印象しか与えない可能性がある。その意味で、欧米のキャリア教育の事例を紹介している本報告書の西論文は、今後の職場体験学習等の在り方について重要な示唆を与えるものであろう。

 キャリア教育と銘打った取組みが始まって、まだ数年しか経過していない。それぞれの学校で取組みについて試行錯誤が続いているのが、今のキャリア教育の状況であり、キャリア教育=職場体験学習等という短絡的な結びつきもまだまだ見受けられる。人権の観点を踏まえ、一人ひとりの子どもたちの状況を踏まえた総合的な自立支援に取り組むことがキャリア教育のあるべき姿ということを、本報告書は明確に打ち出している。