一読して感じた本書の特徴の1つは、学力という議論の多いテーマにもかかわらず、読みやすさ・理解のしやすさにあると思う。学力を知識・理解:葉、判断や思考:幹、そして意欲・関心・態度:根に例えての説明や、学力を育む要因としての家庭・学校・地域のそれぞれの役割、などわかりやすく書かれてある。さらに、著者自らの家庭・学校・地域での「学び」の出会いを重ねて、さらに具体的に説明をしている。
2つめの点は、被差別部落の子どもたちをはじめ社会的困難を抱える子どもたちの学力保障を考えていく上で重要な指摘をしていることである。
第1に、関西の小中学校を対象にした「2001年東大・関西調査」にもとづいて、学力と家庭階層との関連性を明確にしたことである。個人情報への配慮もあり「家にコンピュータがある」「家族と博物館へ行ったことがある」等の文化指標で家庭階層を推測しているが、階層的に「低い」家庭ほど学力状況は厳しいことが明確にされている。
第2に、これだけでは「学力=階層決定論」になってしまうが、個別の学校の分析を通じて、きびしい家庭階層の子どもが多いにもかかわらず、一定の学力達成を実現している学校があることを明らかにしていることである。欧米ではこうした学校を「効果のある学校」と呼び、大きな関心と研究が進められているが、2001年調査で該当する小学校と中学校(いずれも同和教育推進校)の特徴が浮きぼりにされている。
第3に、関西の研究者と実施した「2004年学力効果調査」で、6校の「効果のある学校」の特徴(先の2校も含めて)を、「しんどい子に学力をつける7つの法則―日本版・効果のある学校」として明らかにしている。具体的には、<1>子どもをあれさせない、<2>子どもをエンパワーする集団づくり、<3>チーム力を大切にする学校運営、<4>実践志向の積極的な学校文化、<5>地域と連携する学校づくり、<6>基礎学力定着のためのシステム、<7>リーダーとリーダーシップの存在、である。一見、直接学力にかかわる部分は<6>だけである。しかし、「しんどい子」も含めて、学力保障のためには何が重要であるかを明確に示しているのではないかと痛感する。
「学力低下」がいたずらに騒がれているが、こうした「効果のある学校」づくりのビジョンを学校設置者である教育委員会がしっかりと持ち、時間をかけてしかし確実に多く作り上げていくことが今何よりも求められているのではないか。
|