学校教育を終えた後、安定した職業生活と新たな家族形成を達成できず、失業、不安定就労、無業の状態にとどまる若者が、近年増加していることが大きな社会問題となっている。フリーター・ニートの増加は、社会のさまざまな領域で深刻な問題をもたらすという危機意識から、政府主導でさまざまな対策が打ち出されている。
しかし、こうした「若者の危機」に関する構造的な背景を認識し、若者のうち特に困難な状況に置かれている層をターゲットとした調査研究は、日本では近年ようやく取り組まれ始めた段階である。部落解放・人権研究所を中心とする研究グループが行った「大阪フリーター調査」もその一つである。この調査の詳しい知見については、部落解放・人権研究所編,2004『社会的に不利な立場におかれたフリーター―その実情と包括的支援を求めて』および、部落解放・人権研究所編,2005『排除される若者たち―フリーターと不平等の再生産』をご覧いただきたいが、40人の若者に対するインタビュー調査から主な知見として描かれたのは、不安定な家庭出身者が十分な教育を受けられないまま早期に学校を離れ、結果として不安定な大人の生活に移行していくプロセスである。「学校からの排除」 と「社会的排除」が相互に原因となり結果となる形で連関している姿が浮かび上がったのである。
こうしたインタビュー調査で得られた知見は、たまたま我々が出会うことになった一握りの若者の現実だけではなく、同様の背景をもつ若者たちの生活を説明することにもなろう。それを説得的に主張するためには、多数の若者を対象とした数量的な調査研究を実施することが求められる。そこで、「大阪府立学校人権教育研究会」「大阪市立高等学校人権教育研究会」の協力のもと、フリーターを輩出している高校の生徒を含む、高校生を広く対象とした質問紙調査「高校生の生活と進路意識調査」を2004年度に行った。
本報告書は「高校生の生活と進路意識調査」の結果であり、「誰がどのようにしてフリーターとなるのか」が多様な側面から論じられている。今回の調査の知見をフリーター選択層の特徴としてまとめておくと、低い階層出身の子どもが小中学校段階から学校、学習から徐々に離れ、「進路多様校」「商業校」に進む。高校段階ではさらに学校、学習からの距離を拡大しつつ、同時に学校の外で展開される遊びやアルバイト生活にウェイトを置くようになる。教師との関係が薄いことも特徴的である。また、家庭で親からの働きかけや期待を受ける程度が他に比べ低く、身の回りに安定した生活を達成したモデルとなる人が少ない傾向も確認された。特に女子に見られる特徴としては、伝統的な性別役割と家庭像を内面化している度合が高く、自尊感情については低い傾向が見られる。40人の若者への聞き取りとして行った「大阪フリーター調査」で得られた知見の多くが数量的に確認された。
低い階層出身の、さまざまな形で不利な条件のもとにある子ども、若者が困難な状況にとどめられ、世代をこえてそうした状態が引き継がれている傾向があるのは間違いない。そうした傾向が認識されたうえで、有効な支援策を講ずることで生活を支え、再生産サイクルを断ち切る施策が求められる。学校教育においても、階層的視点が導入され、不利な条件に置かれた子どもたちに対する特別な支援が学校内外で打ち出されることが強く求められる。
西欧諸国と異なり、「若者の危機」をめぐる問題とその構造的な背景が可視化されにくい日本においては、本調査のような丹念な調査研究の蓄積が重要な意味をもつだろう。今後も、若者、子どもに関わるさまざまな立場の方々とのやり取りを続けつつ研究を進めていきたい。
【目 次】 |
序 章 「高校生の生活と進路意識調査」の概要と課題 |
第I部 (概要編) 高校生の生活と意識 |
第1章 進路分化 |
第2章 高校入学以前の学校生活と進路展望 |
第3章 高校生活 |
第4章 生活スタイル |
第5章 家庭生活 |
第6章 職業意識 |
第7章 ジェンダーと家族生活展望 |
第8章 心理・自尊感情・社会関係 |
第II部 (分析編) 進路分化の規定要因 |
第9章 進路分化と生育家族の階層的背景 |
第10章 進路分化と学校生活 |
第11章 進路分化とモデル・ジェンダー・ネットワーク |
第12章 進路分化と自尊感情・自己イメージ |
補 論 就職・フリーター選択の規定要因 |
終 章 調査の知見と課題 |
資料編 |
調査票・集計表 |
(『フリーター選択の構造と過程―「高校生の生活と進路意識調査」報告書』序章および終章を内田龍史が要約した)
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