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2006.07.24
書 評
 
内田龍史

部落解放・人権研究報告書 No.4

「食肉業・食肉労働に関するプロジェクト報告書」

A4判、71頁

 当研究所では、2005年度、様々な調査研究事業に取り組んできた。その結果、2005年度末を目途に、各研究事業の成果を報告書として取りまとめたところである。
 これら報告書が一層普及することを企図して、それらの概要を掲載することとした。

 総論では、食肉業およびその関連産業が「部落産業」とされてきた意味を問い直すこと、食肉生産の労働現場において、働き手に即して労働の実態とその思いを理解すること、「部落差別」と「職業差別」との複雑な関係性を現実に即して読み解くこと、差別克服の視点から食肉製造技術士各制度の確立への展望を示すことなどが試みられている。

 1章では、明治初期に作られた川口居留地・西成郡木津村・西成郡安井村などでのと場のありようや、大阪と畜会社・浪速屠畜合資会社、1906年の屠場法制定後に設立された大阪市立木津川屠場・今宮村営屠場といった展開を経て、1939年に大阪市立屠場が開設され、1958年に大阪市中央卸売市場食肉市場となる大阪市における食肉市場の変遷について記述されている。

 2章では、食肉処理場で長年働いてこられた技術作業員の方からのインタビューを通じ、BSE(牛海綿状脳症)問題の作業現場への影響と食肉の安全性確保の努力が明らかにされている。

 3章では、イメージの上で、多くの人に「特殊でこわい場所」と思われてしまっている「と場」の内部において、牛肉・豚肉が生産される解体の手順や解体の技術が、歴史的な変遷もふまえて丁寧に示されている。また、オンラインシステム全盛の中で、和牛の特質に見合った床解体技術が見直されるべきだと主張されている。

 4章では、家畜のと畜解体にともない、それを処理する事業の一つとしての「化製場」をとりあげ、悪臭問題などの化製場対策の歴史的経過について述べられている。また、地場産業であるレンダリング産業の、リサイクルという視点からの可能性についても指摘されている。

 5章では、食肉文化と被差別部落との関係について、近代における食肉事情やと場の開設、食肉生産や食肉文化にはたした部落の役割について述べられている。

【目 次】
総 論 と畜労働の現場から日本の食肉産業を問う
  [総論資料]史料紹介 津守食肉市場労働組合の結成と年金闘争
第1章 大阪市における食肉市場の変遷―明治初期を中心に
第2章 食肉労働をめぐって―インタビュー わたしたちがつくる食肉は安全です
第3章 食肉労働の技術
第4章 獣骨処理業と部落問題
第5章 食肉文化―被差別部落の技術