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2006.08.21
書 評
 

笹本雄司郎著

CSRの心

※座談会協力:後藤敏彦・安達英一郎・中村典夫
第一法規、2004年10月、163頁、定価1,700円

 企業の社会的責任(CSR)については、ある種の「ブーム」が去り、現在は実際にどう実施していくかという段階に来ている。さまざまなフォーラムで議論され、規格化や、基準作りが各方面で取り組まれているが、しかし各企業内では、「ではいったい何をすればよいのか」という疑問があるという。各社の規模も異なれば、業種も様々である。そのような背景の中で、一律に取り組むべき事項があるかといえば、そのように捉えるのは、なかなかしっくりこないところがあるかもしれない。このような状況を前にして本書が説くのは、実践そのものというよりは、表題にもあるように、CSRに取り組みに当ってさしあたり押えておくべき「心構え」のようなものである。

 第1部では、「持続可能性」を軸として、CSRにまつわる様々な概念の整理をした上で、導入に際して各企業にくすぶっているいくつかの誤解を解き、企業がとるべき行動を示している。これはこれで興味深いのだが、第2部・第3部の座談会では、より一層実践的な観点からの考察が進められている。

 中でも興味深いのは(必ずしも賛成というわけではないが)、CSRが規格化なり、標準化なりおこなわれて、一定求められる行動のカタログがまとめられたとしても、各社は「それをすればいいのか」という態度で臨むべきではない、という点である。つまり、経営の考え方の根幹に組み込み、各社なりのこだわりをもって取り組むべきであり、全てを総花的に行えば足りる、というわけではないというのだ。真にCSRが各社の血肉となっていくことが重要だとする議論は確かに首肯しうるものがある。

 しかし、「わが社は環境についてしっかりと取り組んでいるので、他の社会問題については後回しにしているんです」という回答が仮にあるとすれば、それもCSRを適切に実践しているとは評価し難いであろう。そうなれば、やはりどのような業種・規模であってもなすべき分野というのはあるのではないだろうか。