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2006.10.13
書 評
 
李嘉永
研究所通信338号より

橘木俊詔

格差社会
―何が問題なのか―

(岩波新書、2006年9月、212頁、定価700円)

 90年代以来、日本経済の停滞の中で、政府は景気回復を図るべく、経済・財政構造改革をすすめてきた。その結果、今日、国内における格差の拡大が大きな問題となっている。本書は、格差拡大の現状、背景を簡明に整理し、そして格差拡大を阻止するための処方箋を指し示している。

 著者の主張は、極めて明快である。つまり、市場重視の新自由主義的な経済・財政政策の展開によって、所得の再分配が不平等化し、その結果、貧困率が増大したというものである。このような格差拡大に関する政府の見解は、「高齢化が進んでおり、その場合当然格差は進行するのであるから、拡大したというのは見かけ上のものである」というものだ。この「見かけ」論に対する著者の返答は、痛快である。「この高齢単身者という貧困層が増えたことをどう考えているのか」。単身高齢者や母子家庭、そして若者たちに、その貧困化が顕著であるという状況に、正面から応えていない、という指摘である。

 所得税累進性の低下、社会保障切り下げといった直接的な再配分機能の問題だけではなく、教育予算や雇用対策の貧弱さなどの関連政策領域の課題をも指摘した上で、経済効率と公平性の両立、雇用格差・地域間格差の是正、教育機会の保障、貧困救済などを求めている。

 「非福祉国家」日本。このような著者の厳しい指摘に対して、安倍新政権は適切に応えられるか。その推移を凝視する上で、本書は基本的な枠組みを提示している。社会的課題克服を目指す人びとに、是非一読を奨めたい。