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2007.10.4
書 評
 
清原 正義

大阪府教育委員会事務局スタッフ編

『行政が熱い 大阪は教育をどう変えようとしているのか』

(明治図書出版、2005年2月、A5判・142頁、1860円+税)

 本書で大阪府教育委員会事務局のスタッフが『大阪の教育改革』について熱く語っている(代表:成山治彦)。教育行政の担当者が自らの施策についてこのようにまとまって述べるのは全国的にも珍しい。それだけに、大阪府教育委員会が「大阪府教育改革プログラム」(一九九九年)に賭ける意気込みが強かったのだろう。行政関係者はもとより、学校の教職員さらに研究者にとっても、地方の教育施策について知るのに大いに参考になる。
 さて、本書の内容は以下のとおりである。

I . 地域密着で進める大阪の教育改革
II. 教育七日制と義務教育活性化プラン
III. 多様な生徒実態に対応した高校改革
IV. 非行や不登校の解決のために
V. 『共に学び共に育つ』障害教育
VI. 違いを認め合って共に生きる
VII. 教育コミュニティづくり
VIII. 地域に信頼される学校づくり

 以上の内容を見て感じられるのは、教育委員会の施策が、様々な背景や問題を抱えた子どもへの目配りと、学校を成り立たせる地域への眼差しをもって行われていることに他ならない。通常、教育委員会の施策を説明するときは、就学前教育から始まって高校までの施策を学校種別、領域別に述べ、次いで生涯学習(社会教育)や個別施策に触れることになる。

 大阪府教育委員会でもそのような記述はできるだろう。しかし、本書は上記のように問題に応じた施策の記述を前面に押し出している。まさに、「大阪の教育改革」はここを伝えたいと著者たちが言っているかのようにみえる。

 そのような本書の意図は、第Ⅰ章「地域密着で進める大阪の教育改革」によく述べられている。そこでは、「大阪の教育が大事にしてきたこと」は「"荒れ"に立ち向かう"厳しさ"と背景を理解して立ち直らせようとする"優しさ"の統一」だという。また「多様なニーズに応える公立学校づくり」であり、「違いを認め合って共に生きる教育」「地域とつながって」進める教育改革だという。ここに同和教育や在日外国人教育の蓄積が反映しているようにみることもできる。

 そして、確かに、この点に「大阪の教育」の大阪らしさがあることも間違いない。
 それが教育委員会の施策に強く現れているのも、いかにも大阪らしい教育風土だといえる。なお、本書の各章では特徴ある施策がスケッチされているが、一般的に言って、実践や施策に関する限られた紙幅での凝縮された記述の背後には、膨大な事実や行為の集積がある。それを知った上で本書の各章を読む必要があることを付け加えておきたい。

 ところで、筆者も大阪府教育委員会の施策の一端に関わった経験がある。本書と関連して、その印象について述べておこう。まず第一に指摘できるのは、施策の先進性である。たとえば第Ⅷ章で触れている「学校教育自己診断」である。最近でこそ学校評価が全国的に広がってきた。しかし、保護者や子どもによる評価を取り入れた大阪府の「学校教育自己診断」は、現在でも全国的に先進的な学校評価だと思う。簡単なようでも保護者や子どもによる評価を学校?教職員?が受け入れるのは実際には容易ではない。大阪でも試行錯誤が続いているが、それでも学ぶ点が多い。

 教職員評価(教職員の評価・育成システム)でも同じことが言える。教職員評価では東京都が先陣を切った。しかし、大阪府教育委員会の評価は東京方式とは評価方法が異なる。教職員評価そのものが多くの課題を持つことは否定しない。

 ただ、教育委員会での検討に参画した筆者の考えでは、東京方式より大阪方式が理論的には優れていると明言できる。細かい点にわたるのは避けるが、教育委員会事務局の担当者のなかに、東京への健全な対抗意識があったのは確かである。

 それは、学校運営組織の在り方について、東京都の主幹に対して首席を導入した点にも現れている。もっとも、筆者には首席というネーミングがいいとは思えないが。

 最後に、本書には大阪教育大学の稲垣学長、大阪大学の志水教授が一文を寄せている。大阪府教育委員会がスクールリーダーの養成などで大阪教育大学と密接な協力関係をつくっていることは研究者の間でも注目されている。また志水教授が大阪の学校現場に深く入り込んだ研究を精力的に行っていることもよく知られている。本書に収録された施策にはこのような研究者との連携が背景にある。この点も本書の特徴だと言える。本書が広く読まれることを期待するとともに、関連する著作として志水宏吉「学力を育てる」(岩波新書)、同「公立小学校の挑戦」(岩波ブックレット)、高田一宏「教育コミュニティの創造」(明治図書)、同「コミュニティ教育学への招待」(解放出版社)があることを紹介しておきたい。