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2007.12.19
書 評
 
桑山亜也(NPO法人監獄人権センター事務局       

日本弁護士連合会[編]

『改革を迫られる被拘禁者の人権
2007年拷問等禁止条約第1回政府報告書審査』

 本書は、2007年5月に行われた国連・拷問禁止委員会による第1回日本政府報告書審査の全記録を、日本弁護士連合会をはじめとする国内NGOの視点からまとめている。拷問禁止委員会とは、日本が1999年に加入した国連の拷問等禁止条約(拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取り扱い又は、刑罰に関する条約)によって設置された、同条約の各国における実施状況を監視する機関で、締約国から選ばれた法律家等のエキスパート10名から構成される。条約が定めたもののなかでも、政府報告書審査は、委員会が条約の実施状況を判断する際のもっともポピュラーな手段であり、今回日本はその最初の審査を受けるに至った(政府報告書の提出は、2005年12月)。

 報告審査においては、委員が度々、NGOによって提供された情報に言及して質問・コメントしている場面が見られる。本書を通じて、実際に政府報告書審査にあたって、審査前、審査中、そしてその後にわたり、委員に対する情報提供など、この過程にいかにNGOが深く関与したか、が明らかにされている。さらに本書には書ききれなかったNGOによる努力が、刑事司法、難民認定、入管収容、精神医療、ジェンダー暴力への対応などの幅広い問題について、真摯な審査が行われ、非常に詳細かつ具体的な審査結果に結びついたのである。また、審査の場で問われているのは、どのような法律をその国が持っているかという「形式面」のみならず、それがどのように履行されているかという「実質面」であることも今回、非常に強調された点である。そのことがNGOの重要性を高めたと言えるだろう。

 ただし、報告書審査は、政府と委員会の対話の場と言われる。本書に収められた審議録をじっくり読んでいただければ、条約に基づく理念(考え方)を柱に据えつつも、日本の現状を批判するだけでなく、建設的な対話を築こうとする拷問禁止委員会の努力のプロセスを見てとれる。課題は、国連の場における対話を、今度は国内における政府とNGOとの関係において実現できないか、ということになろう。委員会審査の記録はその重要な布石となるに違いない。