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2009.03.27
書 評
 
中村清二

志水宏吉

全国学力調査 その功罪を問う

岩波ブックレットNo.747、2009年1月

 大阪府や秋田県の知事が教育委員会に市町村別の結果公表を求め実施させたり、鳥取県では情報公開条例を改正して市町村別・学校別の結果開示を可能にしようとして、センセーショナルな話題を呼んでいる「全国学力・学習状況調査」。

 本書はこのテーマを冷静に考えるための書であり、<1>戦後の1956~66年に実施された全国学力テスト、<2>2007・08年の全国学力テスト、<3>日本が現在モデルとしているイギリスの経験、そして<4>全国学力テストは必要か、の4章から構成されている。

 最後に、著者が示した5点の結論は以下の通りである。

1)現時点で最も重要な点は、実施した2年分の全国悉皆調査のデータを専門家集団の分析チームを立ち上げて徹底的な分析―学力調査のブラックボックスである家庭間の格差と学力の相関性を見る作業も進行中

2)これまで弱かった「証拠にもとづく政策立案」として、学力向上施策を構想すべき―拡大する格差(不平等)を是正するための措置、「しんどい地域・学校」を支える政策が最重要

3)平均正答率の自治体別・学校別公表はデメリットが多くすべきではない。説明責任の関係では、イギリスの「付加価値方式」(学校の学力の伸び率を示す)、「通過率」(一定基準点をどれ位の子どもが通過したかの率)といった序列化や過度の競争を引き起こしにくく、頑張りが評価される形を考えるべき

4)毎年悉皆調査を行う意義はない―将来的には全国テストは10年に1度ぐらいでいい

5)10年のインターバルの間に、必要な抽出調査を実施すればいい

 ぜひ、ご一読をお願いしたい。

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