(1)若年者の就労実態と課題について
若年者の定着率が低いことは問題である。
その要因は親の資産状況の相対的な向上と、社会保障の充実である。そこから甘えが生じ、離職率も高い。そして職業意識も低い。アルバイトの気楽さもあって、フリーターに流れていく。
そういった傾向に対応するためには、中学・高校・大学での教育において、職業意識とのリンケージを図る必要があるだろう。例えば、職業体験のスクーリングや、職業訓練を教育現場で導入するなどである。
(2)ミスマッチネスと求職者への対応の問題
自分に合った職につくことは極めて困難である。大学の新規学卒者でも、3年の内に3割が離職している。
次の就職先を求める意欲がある場合はいいが、難しいのは中高年者の場合である。懸命に求職しても、自分がどこに当てはまるかがわからない。だからこそ、派遣労働の会社や斡旋会社の充実が求められるのであり、こういった事業への政府支援が必要である。例えばインターン派遣制度を充実することで、再就職をより円滑にする方策を導入すべきである。
その際、困難な問題は賃金をどうするのかという問題である。現在、非正規労働は否定しがたく、労働形態は多様化している。だから、それに見合う労働条件をいかに整備すべきかという発想に立つことも必要である。
また、路上生活者についても、職業訓練やカウンセリングといった準備の機会を提供する必要がある。
以上のように、いまや多様な福祉クライアントがいるので、そこに柔軟に対応するためには、NPOの存在が極めて重要である。職業斡旋や介護ビジネスへの誘導など、地域の事情に精通したNPOが重要となりつつある。
(3)内外における労働組合の現状
現状は極めて深刻である。ワークシェアリングの問題でしこりを抱えてしまっている。まずは可能な対応を積極的に行っていくよう宣言すべきではないかと考えるが、ようやく一昨年ワークシェアリングについて一定の方向性が打ち出された。
労働運動自体も退潮している。現在転換期にあるとはいえ、ストライキも行われなくなっている。闘争力の低下は顕著であり、労働運動の側から、多彩な政策提言を行う必要があるだろう。とりわけ、労働力が円滑に流動しうる賃金体系を提案すべきではないかと考える。
ちなみに、組織率低下は他の国でも顕著で、フランスに至っては9%にまで落ち込んでいる。その要因として非正規労働の増加があり、旧東独地域においては、「二流市民」とみなされ、その不満のなかから極右勢力が復活し、人種主義がはびこっている。
(4)派遣労働の労働条件の現状について
一般論からいうと、労働組合も認めたがらないということがあったが、現在は市場の要請もあって、就業の斡旋が活発化しており、現状はかなり健全化している。
現在、厚生労働省と派遣業者との協議が始まっている。また、大企業も派遣労働者を1割から2割抱えている現状もある。問題はもう少し社会制度面からカバーすることであり、厚生労働省が積極的に取り組むことが重要である。
(5)労働の流動化と社会制度の不均衡、職業観の改革の問題について
経済政策と社会政策とのポリシーミックスが重要である。
明治以来の制度を崩しつつあるので、その転換期において、痛みはありうる。問題は、それをサポートする必要があるのである。現在、グローバル化と産業構造、さらには日本型経営の転換が同時並行的に不況の中で進んでいる。その意味では、社会政策上の新たな手段を考え出すことが求められている。
象徴的な問題となるのは、ホームレスの人たちや熟年失業者である。
既成の政策体系ではケアできない現象であるので、起業(介護ビジネス・サービス業など)の促進、支援を進めていく必要がある。また、企業による退職前研修や職業自立訓練などに対して、政府が資金援助をすることも検討すべきである。
(6)リストラと人権について
理論的なジレンマである。労働組合自身がリストラに反対することで、かえって企業の活力を失わせるという側面がある。その意味では、組合側がリストラについてイニシアティブを握って、退職後の就労を確保するための政策提言を行っていくべきである。
例えば、労働組合が、派遣業務を担い、賃金の設定を行っていくことで、「労働市場の支配」という労働組合の根源的機能を確保していくことが可能であるし、また、定年退職者の生きがいのためにも、再就職先として、「老人のための子会社」設立も新たな発想としてあっていい。そこに組合の経営参加していくというものであり、その実例がオランダにある。
(7)官公庁における雇用形態の流動化について
官公庁についてもいえることだが、長期雇用には良くない面もある。労働者を変に縛って、各人の能力が最大限に発揮されていない場合もある。もちろん、日本で雇用形態を転換する際には、前提としてセーフティーネットを充実させることが必要である。