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2008.08.13
部会・研究会活動 <労働部会>
 
労働部会・学習会報告
2008年05月10日

公共サービスの雇用と公契約

吉村臨兵(福井県立大学)

1.公共サービスの雇用

 公共サービスの属性や特質として、いくつか上げられるが、非典型方の労働市場という側面があり、従来型の熟練形成型の労働市場とは異質なところがある。期限の定めがある仕事であり、その結果非正規雇用に近い。派遣労働者と類似している。また、事業者には開拓力がなく、自治体から請け負う仕事という側面が強い。そのため、長期的に人を育てるということになりにくく、雇用が不安定になる。また、職場環境の性質としては、いわゆる「感情労働」という側面が強い。さらに、専門的に公共サービスに携わるにもかかわらず、職場では少数派である。

2.公共調達という背景

 会計法上、公共サービスを委託する際に入札をおこなうことが基本であり、結局のところ金額重視という選定が行われやすい。しかし、上記のような雇用の不安定性を考えるとき、かかる入札には、ある程度の総合評価型が必要となる。

3.解決策としての総合評価方式

 報告者は、2000年に自治労の自治体入札委託制度研究会に参加したが、当時、最低制限価格という仕組みについて訴訟を提起されたため、入札に底値をつけて労働条件を維持しようという考え方が採用しづらい時期であった。そこで、総合評価という方式を用い、雇用環境に資することをプラスの評価点で考えようという発想にたった。雇用保険加入や、就業困難なグループの雇用をプラスに評価したり、就労困難な労働者の雇用を引き継ぐ旨の「提案書」の提出を求めるというもの、さらには労働条件が相対的に良い企業にポイントを与えるなどの方策が考えられる。

 米国の例では、相場賃金という考え方が強いが、日本ではあまりそのような発想はない。また、米国の幾つかの自治体では、公共調達に関して雇用継続条項を持つ場合もある。米国には、労働協約で相場賃金が定められている場合があり、これを遵守しているか否かが落札のポイントとなる。しかし、移民や女性が多い働き先だと、相場自身が安いという問題もある。いずれにしても、全てが相場賃金で行われているというわけではない。

 通常の入札は価格が下がれば下がるほど評価が上がるが、総合評価の場合、一定の価格以下になると、評価としては上がらないという方式である。また、豊中市の方式では、基準価格より低い場合、点数が下がる。それだけ質が下がるだろうという判断である。様々な方式があるが、価格だけではなく、仕事の中身や、雇用のあり方も評価の対象にするということである。

 また国分寺市のように、「雇用環境が良くなる国分寺市を目指して」という要綱を示し、事業委託する際の原則を謳うという方式もある。さらには、総合評価ではないにせよ、労働環境を整備するという観点から、「建設業退職金共済」の仕組みを用いて、公共事業ではこの共済に加入し、掛け金が必要だということを前提にし、落札した業者にはかかる共済の「証紙貼り付け実績書」を提出するよう求める「帯広方式」もある。今日では日雇い派遣の問題があるが、そういった労働者の雇用保険に関わって、同様の方式を取ることができないか、検討する余地があろう。

4.米国のリビング・ウェッジ・キャンペーンの周辺

 今回科研費調査のために渡米したが、その際、カリフォルニア州の幾つかの取り組みについてヒアリングをした。サンフランシスコ市では、当初事業委託先を無作為抽出して賃金状況の調査を行っていたが、必ずしも不安定な委託ばかりではないため、特に移民の多い部門・企業をターゲットに絞って、最低賃金が遵守されているかどうかを調査している。

 オークランドの隣にあるエミリービルでは、ホテルのベッドメイキングが低賃金であることから、ハウスキーピング上の業務安全基準を条例で定めた。というのも、近隣のホテル業者が相対的に人件費が高くなり、不公正であることから、近隣他市のホテル業者が応援したためである。

 他方で、サンタモニカ市では、リビングウェッジを実施すると雇用が外部に流出するとして、ホテル業者はホームレスに反対のプラカードを持たせるなどの反対運動を行い、条例は否決されてしまった。

 ロサンゼルスのコリアタウンでは、ある小売業者がショッピングセンターを出店しようとしたが、駐車場の広さが足りない。その結果あぶれた車が周辺に溢れ、地域生活に影響するとし、これをコミュニティに還元する意味で、地元雇用労働者にリビングウェッジを保障するという要求をし、カリフォルニア州最低賃金プラス1ドルで妥結した。

 これら多様な取り組みがあるが、これらが直接アメリカの賃金水準を上げているのかといえばそういうことでもなく、これらの運動の意義はシンボリックなものに止まっている。とはいえ、賃金水準引き揚げの起爆剤的な意義はあるであろう。

(文責:李嘉永)