調査研究

各種部会・研究会の活動内容や部落問題・人権問題に関する最新の調査データ、研究論文などを紹介します。

Home調査・研究部会・研究会活動産業・農業部会 > 学習会報告
2004.09.13
部会・研究会活動 <産業・農業部会>
 
産業・農業部会・学習会報告
2004年7月29日
21世紀の中小企業
-国際的な情勢を中心に

田中 充 (関西大学教授)

はじめに

  「21世紀は人権の世紀である」といわれているが、日本の産業経済社会を見ると「勝ち組(強者)」と「負け組(弱者)」に振り分け、「勝ち組」、いわゆる強い中小企業だけを育てていこういう一層の「明」と「暗」への二極分化の拡大が進んでいる。このことは1999年12月の新「中小企業基本法」にも謳われている。このような中、中小企業とりわけ生業的な零細層に対する施策の充実が望まれる。

  部落産業については、もう格差が是正されたという認識がもたれてきているが、まだ問題はある。これからは単に「部落産業」というだけではなく、中小企業問題、地場産業問題として「部落産業」をとらえなおし、また、マイノリティの中小企業も、産業論、産業経済の立場からとらえれば得られる援助や発展の可能性もいろいろあると考える。

中小企業育成のあり方

  現在は価値観の変化と多様化により、国際経済環境が変貌してきている。ますます地球規模(グローバリゼーション)で無国籍化(ボーダレスエコノミー)が進展しつつある一方、地域分権化・ブロック化(ローカリゼーション)も同時進行しており、いわゆる「グローカリゼーション」が進展している。

  世界的にはより広い視野から中小企業、とくに企業(経営)と生業(家計)を分離できないほどの小規模のファミリービジネスなどに対する取り組みが行われている。たとえば、アメリカでは早くからホワイトハウス中小企業会議があり、中小企業のなかでも社会的弱者、とくにマイノリティの産業育成について、経済的な計算からではなく人道主義の立場から取り組んでいる。

  欧州では古くから親方(マイスター)というのは社会的地位が高く、それが名前に表れている。「シューマッハ」というのはドイツ系では「靴をつくる人」のこと、「クーパー」というのは「桶屋」であり、その伝統的な名前に誇りを持っている。そして「ブッチャー」という食肉産業に携わる人も非常に地位が高い。

  ところが日本では逆に重要な文化産業であるにもかかわらず社会的歴史的に不当な差別の中で利用されてきている。また、スイスの学会メンバーには日本の二重構造という産業構造、ピラミッド構成があまり理解されておらず、「下請け」というものも知られていなかった。部落差別についても同様である。

  今日、日本の中小企業は国内の大企業のみならず、先進国からも圧迫されている。日本の大企業の海外進出に対する見返りとして「○○を買ってくれ」ということである。例としては皮革産業の自由化の問題がある。これからは中小企業が大企業と対等となった「社会的合理的分業関係」の構築が重要であり、今その時機が到来しているといえる。そして機会を生かすためには起業家精神、経営者能力を十分に発揮できるための再教育・訓練が必要不可欠である。

  この点、ヨーロッパでは取り組みが進んでおり、アジアでもアジア欧州会議(ASEM)などでの動きがある。日本でも中国の事例などに注目していくことが重要である。また、部落産業は今後発展していく要素を多々秘めている。これまで閉鎖性を余儀なくされてきた部落産業のあり方を見直し、互いの提携・協力関係の構築がなされなければならない。

(松下 龍仁)