国際小口金融年
2005年の国連「国際小口金融年」は貧困緩和の達成に向けた戦略の一環として、低所得層向け小口金融を促進するための国際行動、各国での政策的取り組みを促している。
マイクロファイナンス(小口金融)とは
「小口金融」には高利貸しから金融講、サラ金までいろいろある。ここでいう「マイクロファイナンス」とは「小口金融」と少し意味合いが違い、主として発展途上国における低所得層やインフォーマルセクターの自営業に金融へのアクセスを開くものをさす。当初はクレジット中心であったが、今日では貯蓄も含めた金融サービスを重視することから「マイクロファイナンス」という言葉が使われている。
なぜマイクロファイナンスが注目されるのか(歴史的経緯)
マイクロファイナンス登場の背景には、1960年代の農業改良融資が小農家や零細農家には行き届かなかったことや、都市のインフォーマルセクターの零細な自営業者に対する融資制度がなかったという反省があった。
その反省から1970年代から低所得層向けの小口融資の取り組みがタイのBAAC、バングラディシュのグラミン銀行、インドのSEWAなどによって始められていく。そして、1990年代にさまざまな開発活動の中で注目され始め、開発援助機関やNGOによって取り組みが広がっていく。
マイクロファイナンスがなぜ評価されたのかについて、ひとつは高い返済率がある。マイクロファイナンスの返済率をみるといずれも90%前後になっており、非常に高い数値である。ちなみにそれまでの政府系農業銀行などは返済率50%でも「いい方」だと評価されている。この返済率の高さから持続性があり、さらに規模が拡大されていったからである。
また、マイクロファイナンスといっても、その法的資格はさまざまであり、たとえばインドのSEWA銀行の場合は協同組合銀行という法的性格になる。バングラディシュのグラミン銀行は、政令特殊銀行であり、インドネシアのBKKは中央政府系銀行の村落代理店という法的資格になっている。
なぜマイクロファイナンスが注目されるのか(成功してきた機関の特徴)
マイクロファイナンスが成功している機関の特徴をみると、ひとつは、小規模な融資であるということがあり、最低限度の融資規模はだいたい5ドルから300ドルぐらいで設定されている。
ふたつめの特徴は、女性を主とした対象としているということである。
三つめには、サービスの工夫がある。
- 基本的には無担保(連帯保証制等の手段で代替)、
- 移動業務、
- 頻繁な返済回数(グラミン銀行の場合は50週返済)、
- 通帳発行、
- 非識字者へのサインの指導(識字学級を開いているところもある)。
さらに、エマージェンシーファンドと呼ばれている緊急支出用の融資(グループ基金)も別途つくっており、緊急貸付がグループの合議で行われているところもある。
このような経営努力によるマイクロファイナンス機関の成功によって、貧困層というのはチャリティーの対象ではなく生産的な活動の担い手である、そしてworkingpoor(活発に経済活動に参加している人たち)、たとえ貧しくても経済活動の担い手である人たちへの金融サービスの潜在的な需要は非常に高いということ、そしてまた彼らは返済能力があるということが示されたということとなり、ここから政府機関や援助機関が積極的に乗り出すようになってきている。
マイクロファイナンスが果たしてきた役割
マイクロファイナンスが果たしてきた役割をいくつか列挙すると、以下のようなことがいえる。
- 貧困層、とりわけ自営業者の資金需要を満たし、持続的な発展を支援。運転資金提供による資金逼迫の打開と安定経営、まとまった資金の分割返済サービス、リースによる設備投資での品質と生産性の改善、などがある。
- 貧困層や女性のエンパワーメント。家計の改善やリスクの自己管理手段の拡大、経済的自立、組織化などによる自尊心の確立と発言権の拡大などによる。
- 他のプログラムとの合体による地域社会の発展。コミュニティのインフラ(集会所や道路など)のための融資などである。
- 金融も工夫次第で市場を拡大することができ、さらにその預金動員による外国資金依存率が低下できるという実証。
近年の議論と今後の方向
- 政府による一方的な資金注入はむしろ害で、外部資金に依存してしまい金融仲介(余剰資金の動員と資金需要領域への配分)機能のない機関は持続しない。
- 政策金融は期間限定では有効であるが、能力が高くクリーンな行政(goodgovernance)なしには機能せず、腐敗と受益者の依存を生む。
- 貧困や女性という特性だけで融資するのではなく、融資価値があるかどうかの重視。
- 誠実な民間金融機関がこの分野に参入可能となるような仕組みづくり。具体的には、インフレ抑制、金利制限の緩和、政治的変動の影響少、規制緩和と監督のバランスのとれた法的整備など。
- 財務管理の重要性。とくにキャッシュ-フロー会計。
- 信用組合、協同組合などの地域密着型(Community-Based)金融機関に発展の可能性が大きい。
- リスク管理手段としての貯蓄商品多様化、ローン、保険導入などの促進。
- 発展途上国だけでなく、先進国内の貧困対策への適用。
まとめ
国際小口金融年がめざしているものは、貧困層へお金をばら撒くことではなく、能力ややる気がありながら貧困、あるいは女性であるということで排除されてきた人びとに、その必要とする金融サービスを広く提供していく。そして家計のリスク管理や経済活動への活発な参入を促すことが中心的な課題なのである。
ただ、「マイクロファイナンス」は末端の貧しい人に対して融資をするといってきたが、あらゆる貧困層がお金を活用し貧困から抜け出すことができたのか、という効果については疑問視されている。なぜならば、本当に貧しい末端の人たちというのは、働き手が少ない、または働き手がいない老人世帯で、主要な家計の収入者の急病など特別な問題を抱えている場合が多い。こういう人たちのためにはむしろ福祉サービス、社会福祉制度の充実が必要になってくる。
元気な低所得層には「マイクロファイナンス」などによってどんどんと自分たちの力でがんばって問題を打開していってもらう。そして本当に社会福祉サービスが必要な人たちには、そのサービスの提供をきちんとしていくための制度を充実させていく、そういう問題整理が必要である。
(松下龍仁)
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