調査研究

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2005.02.14
部会・研究会活動 <産業・農業部会>
 
産業・農業部会・学習会報告
2004年12月21日
産業からのまちづくり

(報告) 高見 一夫(中小企業診断士)

中小企業施策の転換と中小企業

 1999年の中小企業基本法の改正以降、それまで遅れた存在として評価されていた中小企業像が変化してきた。すなわち、中小企業の持つ柔軟性、機動性、創造性に着目、中小企業こそが経済の発展と活力の源泉であるとして、その自助努力を支援していこうというのである。そして中小企業に期待される役割として、<1>新しいビジネスを生み出し、新しいライフスタイルを生み出す、<2>技術革新を主導し、経済の発展をもたらす、<3>高齢者や女性の雇用の場を提供し、さらに新しい就労形態を生む、<4>地域の実情にあったサービス、雇用を生み出す地域貢献型事業、が期待されている。

中小企業とまちづくり

 消費(需要)の側では、防災や環境に対するニーズの高まり、少子・高齢化による家族形態の変化や女性・障害者の社会参加の動き、個性化や多様化した消費構造の変化、などがみられる一方、供給の側では、産業、とくにグローバル企業にみられる「大競争」とリストラ、地場産業の低下や商店街の不振がみられ、行政は財政問題を抱えながら多様性への対応を求められている。

 さらに、核家族化によって家庭内サービスがなくなってきており、同様に地域でのつながりも希薄化してきている。こうしてみると、ニーズ(需要)とシーズ(供給)の間にミスマッチがみられ、その結果くらしの利便性が低下してさまざまな社会問題が噴出してきているといえる。そして、このような状況を克服するために多様な「地域貢献型事業」が求められており、これから求められてくる。ここで中小企業の強みである、地域密着性や柔軟性、機動性を活かした事業の展開の可能性がある。

 地域貢献型事業の特長とは、潜在化している多くの課題(ニーズ)を掘り起こすという、アウトリーチの機能がある。さらにこの事業は将来自分にとっても必要なサービスをつくっているのだという、「人のため」というよりも「自分のため」ということがある。そこから利用者と同じ目線の高さに立ったサービスが創造・工夫されていく。また、ヒトやモノ、カネや文化といった地域資源の活用や投入はそれ自身が目的となっている。そこから、地域経済の再生をめざし、さらに多様な雇用・就労、社会参加の機会の提供になり、コミュニティの再生、つまり人のつながりにもつながっていく。

さまざまな事例

  1. 繊維のリサイクルと就職困難者の仕事づくり(ロードサイド型古着ショップ)
    中古衣料だけでなく、マテリアルリサイクルなど繊維リサイクル率の向上、二酸化炭素削減を視野に入れたリサイクル市場の開拓を進め、同時に、大阪府の地域就労支援事業と連携して母子家庭の母や若年者、障害者等の雇用を進めている。

  2. アルコール依存症者の「食」と「職」を応援する健康レストラン
    アルコール依存症専門クリニックのソーシャルワーカーが医療の範囲を超えて地域生活を支援しようと設立。訪問介護サービスとともに健康レストランをオープン、食生活の支援と就労訓練(社会復帰支援)事業を展開。

  3. 携帯電話による障害者参加運営バリアフリー情報サイト
    携帯端末を使ってバリアフリー情報提供の利便性を確保するとともに、障害者団体に更新作業を委託、さらに有料サイトとして障害者の就労機会を作ろうとしている。

  4. ITを通じて障害者の就職、SOHO自立就労支援(パソコンスクール)
    英会話教室、パソコンスクールの主宰者が、大阪市職業リハビリテーションセンター卒業生を受け入れてインストラクターや請負仕事を体験させ、自立就労をサポート。SOHOの支援や一般就労の場合のアフターフォローを行う。

  5. 公園・駅清掃で障害者・野宿生活者雇用(ビルメンテナンス)
    ビルメンテナンス社が大阪知的障害者雇用促進建物サービス事業協同組合(エルチャレンジ)と連携しての知的障害者の受け入れや、自立支援センターと連携しての野宿生活者の受け入れなどを進めている。

  6. 高齢者くらし組合と連携して割引価格サービス(銭湯)
    地区内13の浴場が、高齢者くらし組合と連携、組合加入の高齢者に対して割引入浴を行っている。

(松下 龍仁)