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2005.06.17
部会・研究会活動 <産業・農業部会>
 
産業・農業部会・学習会報告
2005年3月17日
日本の農業政策の動向と部落の農業の可能性

長谷川 健二(三重大学)

はじめに:部落の農業の実態把握の難しさ

部落の農業は零細性、小規模性の一方で、厳しい差別の中での連帯意識や部落解放運動を通した共同性もあり、実は日本の農業の縮図として位置づけることができる。 部落の農業は農村自体が変動しており、非常に実態がつかみにくい。第一に、農業自体が縮小過程にあり、小規模化している中、部落の場合は農業が空洞化している。第二に、研究の蓄積がなく、1986年農水省の「全国同和地区農村漁業実態調査」ぐらいしか統計がない。第三に、農村部落そのものが多様であり、ひとつのパターン化にすることができないのである。

日本の農業政策の変遷と部落農業

 1946年の農地改革では、20アール以上の土地を有していることを前提に、小作農の自作農化が進められてきた。部落の農家については、平均からすると零細規模の農地保有者として必ずしも農地改革の恩恵を十分に受けておらず、経営自立の物的基盤が脆弱であった。1960年代からの高度経済成長期には工業発展という経済成長と、農業の構造政策が同時に推進されていく。大圃場区画の土地基盤整備と大型機械化体系を装備した自立経営の創出、畜産や野菜などの選択的な拡大を行える農家の育成を政策目標としていた。

 部落の場合、土地の零細性・経営基盤の脆弱性による農業人口の大幅減少がみられる。すなわち高度経済成長期に大量の農村部落住民が農業から離脱した。この要因には山林が解放されなかったこと、入会地利用から排除されていたことが畜産の発展の障害になっていたこと、選択的拡大をするだけの資本の蓄積力をもっていなかったことなどが挙げられる。

 1970年初頭から米の過剰問題が起こり、米価抑制・減反政策が始まる。米に偏重しない総合的農政と、価格政策に偏重しない生産・流通・構造改善が行われるようになる。部落の農業の場合、規模が零細であり、米に偏重していた。これは資金力のなさからくるものであり、この時期に部落の農業の縮小・解体化が進行した。

 1991年のバブル経済の崩壊の中で、農家も経営が悪化していく。WTO体制の下での食料の自由化と、価格支持緩和が行なわれ、食糧自給率が急速に低下した。さらにBSE問題など食の安全性の問題が深刻化し、農山漁村の荒廃も進んでいく。

今日の「農業構造改革」の方向

耕作放棄が続き、農用地が縮小していく中で制定された「食料・農業・農村基本法」は、農業の構造改革促進が目標にあり、具体的には、4つの理念がある。(1)食料の安定供給の確保、(2)農業のもつ多面的機能の発揮、(3)農業の持続的発展、(4)農村の振興である。2005年度には新たな「食料・農業・農村基本計画」の策定が予定されており、(1)食の安全安心と安定供給の確保、(2)食糧産業の持続的な発展、(3)農村の振興、について検討されている。とくに、(2)について、担い手の問題から効率的かつ安定的な農業経営が謳われている。

日本農業の現状

統計をみると、現状の農業経営では高齢化も進み、ほとんどの農家が生活できないといえる。経営耕地については、3ヘクタール以上所有していないと経営が困難であるといわれている。離職農家については、1995年の統計からになるが高齢になるほど離職農家戸数が増加している。農産物の生産者価格については、1995年を100とした指数では、生産者価格の落ち込みは生鮮食料品以外の食料品価格や生鮮食料品価格よりも大きい。

 また、農業生産資材の高騰と農産物価格の低迷によって経営状態が悪化している。農家経済の動向についていえば、販売農家1戸当たりも対前年度で全体として減っており、例外としては「年金・被贈等の収入」がほぼ横ばいになっているだけである。ここから、農業を担う主業農家ならびに準主業農家について経営状態を効率化・改善して維持していくということが困難な状況にあるといえる。

部落の農業の現状

部落について、1993年「同和地区実態把握等調査」をみると、「農業」は6.3%で1985年調査と比べて減少している。

 「農家の経営土地面積別世帯数(自作地+借地)」からみると、部落の場合、30アール(3反)未満の小規模経営の比率が高い。逆に大規模になるほど減少している。「今後の経営のあり方と志向する経営内容別農家世帯数」からみると、「現状のままでよい」が81.0%で、ここには大きな問題がある。つまり、高齢化して跡継ぎがいない、耕地面積も小さいのでこれまでの自給的な農業を営むことを考えての回答であり、「現状のままで仕方がない」という選択肢がはたらいているといえる。

 しかし「機械・施設の共同利用により、協業化を志向する」「機械化・省力化を志向する」人々は、全国平均よりも部落の方が強い。関西大学の石元清英さんの『農村部落−その産業と就労』をみると、1986年「全国同和地区農村漁業」でも部落の農業の小規模・零細性が指摘できる。さらに第1種兼業農家、第2種兼業農家の数値についても同じ傾向がみてとれる。県別の「部落農家の経営規模」からみると、やはり全国平均よりも部落の方が「1戸当たり経営耕地面積」も「1戸当たり農産物販売金額」も低い数値である。「経営耕地面積の内訳」からみると、部落の場合「田」が80.5%、全体は64.8%であり、部落の方が水田に大きく依存している。このように部落の農業の現状は、これまでの同和対策事業がおこなわれてきたにも関わらず、改善されたとはいえず、むしろ厳しい状態になっている。

部落農業の可能性

 これからの部落の農業として考えていかなければならないことのひとつは、部落としての連帯意識、協働性という受け皿の確立がある。各地域の規模にあわせた、一般施策の中でおこなえる共同利用型の創造である。もうひとつは、規模を拡大している農家との関連をもたせ引き上げていく施策を地方自治体に実行させていくことがある。また、高齢化が進行して産業としての性格が薄くなっている中、高齢者の就労機会、あるいは不安定就労の緩衝材的な役割の場として、生きる糧としての農業のあり方も考えていかなければならない。

(文責:松下 龍仁)