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2005.07.11
部会・研究会活動 <反差別部会>
 
反差別部会・学習会報告
2005年3月12日
日本軍性奴隷制をめぐってII

黒田伊彦(関西大学)

〈VTR〉:NHK ETV特集「問われる戦時性暴力―戦争をどう裁くか 第2回―」(2001年1月30日放映、40分)を見る。

〈報 告〉:黒田 伊彦さん

(1)放送前に作成されていたスタジオ台本と比較して、放送では多くの重要な部分がカットされた。

  • 「戦時下の性暴力、性奴隷制が『人道に対する罪』にあたると判断」し「日本国家と昭和天皇の責任を認定」した「女性国際戦犯法廷」の判決

  • 「女性国際戦犯法廷」の意義と評価

     高橋氏は「90年代初めに名乗り出てこられた被害女性が、日本政府に責任をとってほしいと訴えつづけているが、その声がまだ聞き届けられていないという状況の中で、市民が民間の力で被害者の人たちに一同に会してもらって、その声を国際法の専門家に届けて、判断してもらおうという場を作った」と評価する発言を全てカットされた。
    米沢氏は「極東軍事裁判では、『人道に対する罪』が前面に打ち出されて問われなかったというそのことと、『慰安婦』あるいは『慰安所制度』というものに対して、様々な証拠があったにもかかわらず、なぜ問われなかったのか、その2点をもう一度問い直す意味がある」と法廷の意義を語ったがカットされた。

  • 日本軍性奴隷制被害女性の証言の評価

     米沢氏の発言「一人の証言をされている方の背後に何百人何千人という死者あるいは犠牲者の方々がおられる。苦しい体験を語られる時に、それをうけとめて社会のあり方を変えていくということを、引き受けることが大事になることだ」など。

  • 加害兵士証言

     鈴木氏「週に1回軍医が性病検診をしてその結果を部隊の会報で知らせていたから、慰安所の管理は日本軍がやっていたのではないか。」金子氏「当時は中国人を劣等視していましたから、『チャンコロの女をやって何が悪い。どっちみち殺すんじゃないか』という気持ちを持っていた。」

(2)次に、性奴隷制を法的に裁くための国際法規、とりわけ「人道に対する罪」の内容について、改めて確認しておく。

「人道に対する罪」は1945年ニュルンベルグ裁判で、ナチス戦犯を裁くために設定された。

  1. 国内法違反であるか否かを問わない。(ナチス支配下ではユダヤ人殺害は無罪だった)
  2. 戦前または戦時中の行為
  3. 一般住民に対する殺害・殲滅・奴隷化・強制移動その他の非人道的行為。政治的人種的または宗教的理由に基づく迫害

1968年に「戦争犯罪」および「人道に対する罪」への時効不適用に関する条約が結ばれた。

(3)日本軍性奴隷制と軍隊の関与と天皇の戦争責任

 陸軍省の関与を示す最も重要な資料のひとつは、吉見義明教授が発見した、1938年3月4日に陸軍省副官通牒として出された「軍慰安所従業婦等募集に関する件」という文書である。この文書の最後には「依命(めいにより)通牒す」の言葉が記されている。

 「女性国際戦犯法廷」の判決では、次のように述べている。「天皇裕仁は陸海軍の大元帥であり、自身の配下にあるものが国際法に従って性暴力をはたらくことをやめさせる責任と権力を持っていた。」「『慰安所』制度の継続的拡大を通じて強かんと性奴隷制を永続させ隠匿する膨大な努力を、故意に承認し、または少なくとも不注意に許可したのである。」

(4)報道への政治介入問題

 NHK番組改編問題で、中川・安倍氏の関与を報じた朝日新聞の記事に、安倍氏がコメントを出している。この中で、2000年12月に開催された「女性国際戦犯法廷」を、「拉致問題に対する鎮静化を図り北朝鮮が被害者としての立場をアピールする工作宣伝活動であると睨んでいた」と書いている。拉致問題が大騒ぎになったのは2002年9月であることを知らないはずはないが、とにかく拉致問題を引き合いに出すことで、国民が広く持っている差別意識をかき立て、自らの報道への政治介入の事実をあやふやにごまかそうとしている。このようなでたらめな発言を批判もなしに垂れ流す多くのマスコミの報道姿勢は、おかしいのではないか。

(文責:田中ひろみ)