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2005.10.13
部会・研究会活動 <反差別部会>
 
反差別部会・学習会報告
2005年4月16日
中学校教科書検定における『日本軍性奴隷』の記述について

松浦 茂(大阪市立新森小路小学校)

1.「歴史教科書」問題の前史

(1)教科書が政治社会問題になるということ

〈明治期の教科書問題〉

明治初期の教科書は自由発行自由採択制であったが、西洋の近代科学・技術導入に伴って自由、平等、民主主義などの近代思想も導入され、自由民権運動を呼び起こしたため、明治政府は自由民権運動を弾圧し、国内思想統制をはかるために学校教育の内容に介入していった。

1881年、文部省は「小学校教則綱領」で「和魂洋才」の方針を出し、教科書を届け出制にし、他方、「小学校教員心得」によって教員の思想統制を図った。

日清(1894年)・日露戦争(1904年)を支える国民作り、戦争推進体制に平行して、1889年に教科書検定制度が、1890年には教育勅語が発布される。

教科書問題は国家権力による教育統制であり、教育を国家目標(帝国主義侵略)達成の手段にするものである。

〈戦後の教科書問題〉

敗戦後、1947年、教育基本法公布とともに教科書国定制の廃止など戦後改革による戦後「民主教育」が始まる。しかし、中華人民共和国成立、朝鮮戦争の勃発などにより、GHQの占領政策が対共産主義に転換し、1951年講和条約と日米安保条約調印という情勢下、文部省は「偏向」教育キャンペーンを開始する。この後、地教行政法が強行採決されて公選制教育委員会制度は任命制に改変され、教員の勤務評定など、教育が保守反動勢力によって政治的に焦点化されていく。

〈80年代教科書問題〉

1970年の家永裁判での杉本判決は、国家の教育権を否定し、権利としての教育の自由を基本としており、現行の教科書検定制度に違憲の疑いがあることを表明した。

1971,2年、本多勝一の「中国の旅」の出版によって南京大虐殺をめぐる論争が起こる。

1980年代、文部省は自民、民社、財界などの「偏向」教科書攻撃に便乗して検定を強化してきた。(「侵略」→「進出」問題)

(2)国際問題化する歴史の歪曲・美化

1982年検定では、次のような検定意見が出た。

  • 朝鮮3・1独立運動→「暴動」
  • 南京大虐殺→虐殺された中国人の数について「おびただしい」としてはどうか。「暴行」「略奪」などの言葉は何度もつかわぬように。
  • 侵略→「進出」
  • 沖縄戦における日本軍の沖縄住民虐殺部分→削除せよ

教科書問題は、国家の戦略的課題である。国家の側からいかなる「国民づくり」をめざし、いかなるイデオロギーを形成するのかという国家戦略が存在している。

2.2005年度検定の特徴

  1. 「つくる会」教科書 4年前の採択率は0.038%であったが今回は10%を目指すとしていた。
  2. 拉致事件が全ての教科書に登場した。
  3. 「慰安婦」の用語は8社すべての教科書から消えた。
  4. 南京大虐殺については、清水書院、日文、帝国の3社が「虐殺」と記述した。
  5. 独島(竹島)については扶桑社の「韓国と我が国で領有権をめぐって対立している竹島」との記述が、検定意見で「韓国が不法占拠している竹島」と修正された。

3.「つくる会」の運動

侵略戦争を正当化し、日本軍「慰安婦」制度や強制連行や南京大虐殺などの歴史的事実をことごとく歪曲し、または隠蔽し、「自虐」ではなく「誇りある日本人」を育てる教科書作りを宣言し、「戦後民主主義」という価値認識を解体していくことを宣誓している。つくる会の組織、構成者は教基法「改正」を推進するメンバーと重なっている。

4.対抗戦略

  1. 侵略戦争によってアジア諸国民に多大な惨禍と犠牲をもたらしたこと、侵略行為の内実として、おびただしい殺戮、日本軍性奴隷制度、「強制連行」、「南京大虐殺」などが存在したということを、歴史的事実として歴史教科書に記述し、次世代に伝える。
  2. 加害国政府として謝罪と責任のとり方を考えていく。
  3. 教科書による歴史記述はそれ自体が国家の歴史認識の公式表明となる。
  4. ヴァイツゼッカーの「アウシュビッツなどの過去の過ちを忘れるのではなく、心に刻み、世代を通して過去から解放されようとする―犯した罪の重さを自覚する」という言葉は歴史を語る上での原点といえる。
  5. 日本軍「慰安婦」制度など日本の侵略戦争、戦争犯罪の象徴的歴史を改ざん、もしくはなかったかのように宣伝することは、侵略戦争の正当化である。戦争犯罪の事実を記録し、伝えていくことは、再び同じ過ちを繰り返さないために必須の歴史的作業である。

(文責:田中 ひろみ)