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法律・狭山部会・学習会報告
2001年6月26日

国際人権条約と国内判例

(報告)丹羽雅雄(弁護士)

弁護士会では人権をめぐる現状の打開の一環として、1988年に自由権規約の選択議定書批准を求め、1996年には近弁連によるシンポジュウム「国際人権条約の裁判活用」を開催した。シンポジュウムでは、自由人権規約の各条文と国内人権の関連性をまとめると共に、主な裁判活用事例が報告された。

裁判事例としては、

1. 外国人の国選弁護事件において訴訟費用中通訳に要する費用を被告人に負担させたのは国際人権規約に違反して違法とした横浜地裁判決(1992.8.5)
2. 民族差別による入居差別裁判大阪地裁判決(1993.6.18)
3. 婚外子相続分差別の合憲性に関する東京高裁決定(1993.6.23)
4. 外国人登録法に基づく指紋押捺拒否を理由とする逮捕に対する国家賠償請求事件への大阪高裁判決(1994.10.28)
5. 徳島刑務所での受刑者と弁護士との接見妨害に関する損害賠償請求事件への徳島地裁判決(1996.3.15)、などがあげられ、少しづつではあるが、地裁、高裁までは人権条約を判決の中に取り入れていこうとする動きがある。

 しかし一方で、最高裁がまったく人権条約を考慮しようとしていない現状が今も続いていることが触れられた。丹羽弁護士らが進めている一連の「軍属」関係の戦後補償裁判でも、最高裁はまったく人権条約には触れずに棄却決定を行なうなど、最高裁の国際人権条約に対する基本的認識がまったくないことが大きな問題となっている。

 こうした事も含めて、これまでの人権条約の裁判活用の到達点をまとめる必要性が大きいことが述べられた。

 次に藤本晃嗣・大阪大学大学院生より、先行研究としての文献紹介がなされ、裁判活用された基本的な事例は、『国際人権』2号、10号でまとめられていることが報告された。

 続いての議論のなかで、判例を分析する視点の確立の重要性(例えば憲法や法律のこれまでの解釈に与えた影響や憲法・法律上にない規定を人権条約が有している場合の適用状況など)や司法研修における人権条約の位置付けなどについて意見が出された。 (中村清二)