はじめに竹下政行・弁護士より「ILO条約を援用した裁判例」について報告があった。最高裁のホームページの判例検索から、ILO条約を援用した判決は44件あり、これらについての個別の分析が報告された。
この中で、<1>ILO条約が法規範としてあまり認識されていないこと、<2>個別事例の裁判での条約あいまいさがつよい、援用の可能性を妨げている理由として、イ) 条約の規範性の構造や意義、要件、効果の定見がなく条約自体の周知性が乏しい、ロ) 労働関係事件の民事裁判の大半は「解雇の効力ないし労働契約上の地位確認」で、民法1条(権利濫用)が究極の規範なので一般条項解釈となるためあいまいさが大きい、ハ) 労働基本権関係や立法課題追求型では憲法との対比に論点が聚斂されやすい、ニ) 他の人権条約についてもあてはまるが、批准時の立法整備という政府の慣行に安易になれてしまっている、といったことが指摘された。
また課題として、<1>ILOの国際的監視システムからの情報提供や日本政府のILOに提出している情報の開示システムが重要であることが述べられた。
続いて、幸長裕美弁護士より「人権条約を援用した裁判事例の分析(2)」が報告された。具体的には、難民条約関係、指紋押捺に関わってB規約12・26条、旅券発給拒否処分に関わってB規約12条、犯罪人引渡しに関わってB規約7条、子どもの権利(外国人登録申請却下処分取消請求)に関わってB規約24条・子どもの権利条約7条、をめぐっての裁判所の判断の検討が報告された。
(参加者) 松本健男、武村二三夫、丹羽雅雄、竹下政行、大川一夫、幸長裕美、藤本晃嗣、中村清二