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法律・狭山部会・学習会報告
1999年4月15日
差別身元調査事件の概要と採用調査の是非をめぐって

(報告)赤井隆史(部落解放同盟大阪府連)

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 昨年7月に発覚した調査会社アイビーとリックによる部落出身者や在日韓国・朝鮮人かどうかの差別身元調査や思想調査の具体的実態が『あなたも調べられている〜差別調査事件の真相』をもとに説明された。

 そして「部落地名総監」事件との大きな違いとしては、約1400社にのぼる調査会社の顧客企業名がわかり、顧客企業の「不可解な」実態が浮き彫りになったことである。1400社のうち、約900社は大阪、約230社は東京、約130社は兵庫、約70社は京都に存在している。

「不可解な」実態の第1は、顧客企業から調査会社へは具体的な内容で調査を依頼しているが、調査会社との契約書もなく、費用の支払い方法も企業が渡した一定の金額から調査会社が勝手に費用を引いていき、なくなればまた企業が一定の金額をまとめて渡すという不透明なものである。

第2は、調査会社からの「Fレポート」(ファックスレポート)という報告書が、企業内でほとんど破棄されていることであり、第3に、企業側が求職者よりの「履歴書」を履歴書確認調査etc.のため調査会社にそっくり渡しているというプライバシー侵害の実態である。

 こうした不透明な形で行われている採用時の調査実態に対し、公正な企業経営と人権尊重の採用システムを確保するための仕組みづくりを検討する必要があり、以下、6点が検討事項として指摘された。

 まず、依頼企業等と調査業者の間での問題では、第1に依頼企業等の依頼内容に関わる問題であり、第2に調査業者から依頼企業等になされる調査報告の内容であり、第3に調査業者の営業・広告行為の内容や両者で交わされる契約内容に関わる問題である。これらの点に一定の基準を設定し「許容できる調査」の範囲を確定することが重要である。

 次に、調査業者と被調査人に関わる問題では、依頼企業等と調査業者との間の問題の反映でもあるが、第4に調査のあり方・方法に関わる問題である。違法な調査手段が許されないことはいうまでもないが、同時に被調査人のプライバシー保護の視点も不可欠である。

 また、依頼企業等と被調査人とに関わる問題に関して、第5に依頼企業等は被調査人の履歴書を被調査人本人の承諾もなく、調査業者にコピー等を安易に渡していた問題がある。同様に被調査人の承諾もなく極秘に被調査人の能力・適性以外のことまで調べていた問題である。第6にそれらの調査結果をもとに採用の可否を決めるという就職差別が行われていた問題である。

 こうした6点について、今日の国際的プライバシー保護の原則(特に1995年のEU個人情報保護指令)や企業が持たなければならない人権性、倫理性、合法性、公式性、公開性等を踏まえて検討する必要がある。

 今後は、プライバシー保護の視点から依頼企業や調査会社の差別性を問うと共に、個別ケースごとの具体的な差別身元調査の実態と課題を明らかにしていく方向が提起された。

 赤井さんの報告を受けて、(1)今回の事件と労働基準法3条、22条との関係、(2)各国の個人情報保護法の状況、(3)身元調査と企業の採用判断への具体的影響の状況、(4)採用調査そのものへの考え方、etc.について質疑が行われた。

(中村清二)