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2004.11.18
部会・研究会活動 <法律・狭山部会>
 
法律・狭山部会・学習会報告
2004年9月6日
2004年日弁連人権擁護大会で何をめざすか

丹羽 雅雄 (弁護士)

 10月7・8日に、宮崎県のシーガイアにおいて、日本弁護士連合会の人権擁護大会が開催された。その分科会の一つとして、「外国人・民族的少数者の人権基本法」の制定を求めるシンポジウムが行われた。では、その開催に先立って、分科会実行委員長の丹羽雅雄弁護士から、そのシンポジウムのねらい、そして「外国人・民族的少数者の人権基本法の制定を求める宣言」のめざすものについて、報告を受けた。

シンポジウムの背景

 現在、日本には、登録されているだけでも191万人に上る外国人が在留している。出身国数も、186カ国に達している。日本の人口比では実に1.5%に登るのであり、また、戦前から日本に居住している者、及びその子孫であるところのオールドカマーのなかには、日本国籍を取得する者も多く、およそ30万人にのぼり、また日本人との婚姻によるダブル・エスニシティを持つ者も約13万人にいると推定される。さらに、日本には先住民族であるところのアイヌの人々も多く存在するのであり、このことから、実態において、日本は既に多民族国家となっているといえる。

 これらの人々は、自由権規約第27条にいうところのマイノリティというべき人々であって、そのマイノリティとしての権利を保障されるべき地位にある。また、現在は国際連合においてマイノリティの権利宣言が既に採択され、条約化の動きに入ろうとしているところである。このマイノリティの権利として特に問題となるのは、日本国籍を取得した朝鮮半島出身者の子孫についてどのようにして民族教育を保障するかという点である。

 しかしながら、これまで日本の法制度は、外国人に関しては基本的に管理法のみでもって遇してきたのであって、権利に関する法制度は全く存在しない。憲法においても文言上は基本的人権も「国民の権利」として規定されているところである。すなわち、1945年の選挙権停止以後、日本は「民族的少数者」をいずれかの方法において「同化」させようとしてきたのである。

 かかる外国人・民族的少数者に対する差別・抑圧の事例としては、過去枚挙に暇がない。マンションや店舗等への入居・入店拒否や、在日朝鮮人児童・生徒への暴行、石原都知事による発言、中国人をターゲットにした「防犯キャンペーン」などが挙げられる。また、近年の国家主義・国権主義の高揚が、かかる抑圧に拍車をかけているのである。かかる状況に対して、やはり外国人の権利を正面から保障する法制が真に求められているのである。

人権擁護大会の「宣言」の内容

 宣言に盛り込まれている項目は、8つである。まず第1に、外国人に対する基本的人権を原則として保障すること、そして民族的少数者(とりわけアイヌ民族)の固有の権利を確立することを求めている。これは、個別具体的な権利のカタログを挙げる前提として、包括的な権利保障を基調に置くべきことを原則におくという趣旨である。

 次に挙げているのは、永住外国人による公的生活への参加を保障することである。地方参政権付与をはじめとする立法への参画、公務員就任権に代表される行政への参画、そして司法への参画である。特に、調停委員や人権擁護委員への委嘱は、結果において外国人を排除する仕組みになっていることから、この点については特に今回重視した。とりわけ、司法制度改革に人権の視点を盛り込むという観点からも、「司法への参画」は重要な意義を有するものと考えている。

 また、1981年まで外国人については公的な社会保障を排除してきたこと、また各種社会保障の認定にあたって外国人に対しては特に高い障壁が存在することから、実質的な保障を求める項目を次に置いている。さらに、外国人労働者の苛酷な労働実態や、人身売買・ドメスティックバイオレンスなどが発生していることに対して、労働基本権の保障、かかる人権侵害に対する救済の充実を求めている。外国人固有の人権課題として、在留の安定を求めることは、とりわけ重要である。これまで入管行政は、法務省入管局の裁量的運用を行われてきたが、このような状況については行政手続法の適用も視野において、適正手続保障と透明性確保に努めるよう要請している。

 また前述の通り、外国人児童・生徒に対する日本語教育の充実、そして民族的少数者の母語教育の問題も、安定した社会生活と、民族的アイデンティティ・誇りを保障する点で、極めて重要である。そして、これらの権利を実質的に保障し、かかる権利の侵害事案に対して実効的な救済を保障するために、人種差別の禁止と、独立的な人権機関の設置、そして人権教育の徹底を求めている。

 以上のように、基本法的な試案を念頭に、宣言案を策定し、各当事者の問題提起も受けながら、シンポジウムの成功を期し、外国人の権利について、日弁連として一定の方向性を固めたい。

(李 嘉永)