弁護士である康さんは、弁護士会協同組合の提携業者を通じて、賃貸マンションの物件を探していたところ、気に入ったものがあったので、入居申込みをしようと仲介業者に向かった。店長がその物件の家主に電話確認をすると、家主は国籍を理由に拒否した。業者の店長は電話で説得をするが、家主は意思を翻さなかった。
後に、他の弁護士とともに、業者の店長に聴きとりをしたところ、家主が入居を拒否した理由は国籍によるものであると明言した。この点を踏まえて、家主に話し合いの場を持ちたいと提案したが、家主はこれも拒否した。代わりに知人の不動産業者が仲介することとなったが、その後、当該不動産業者は、拒否理由として、当該物件が「ファミリー限定」であったためと主張した。しかし、提携業者の物件案内には「友人同士の入居可」と記載があった。この点と先の主張とが齟齬するため、改めて家主と面談をしたところ、家主はかかる記載については提携業者が無断で記載したものと主張した。そこで、家主および大阪市を被告として、2005年11月17日に提訴した。
家主の責任としては、憲法第14条1項のほか、自由権規約・人種差別撤廃条約の平等権規定・人種差別禁止規定に違反すること、社会権規約にいう「相当な居住」についての権利を侵害したため、損害賠償責任を負うことを主張している。
他方、かつての入居拒否事件においては、仲介した宅建業者が差別的な対応をしたこともあり、宅建業法上の監督機関である都道府県の責任を問うていたが、本件では提携業者が被告家主に対して説得を試みるなど、大変協力的であった。そこで、行政機関については、宅建業法に基づく監督責任ではなく、社会的差別を撤廃する責務を地方公共団体も負っているとする人種差別撤廃条約上の規定を根拠として、条例制定を含む差別撤廃措置をとらなかった不作為について、大阪市の責任を追及している。