調査研究

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2006.03.28
部会・研究会活動 <法律・狭山部会>
 
法律・狭山部会・学習会報告
2006年01月18日
康由美弁護士に対する入居差別裁判の報告

康 由美(弁護士)
小野順子(弁護士)

 弁護士である康さんは、弁護士会協同組合の提携業者を通じて、賃貸マンションの物件を探していたところ、気に入ったものがあったので、入居申込みをしようと仲介業者に向かった。店長がその物件の家主に電話確認をすると、家主は国籍を理由に拒否した。業者の店長は電話で説得をするが、家主は意思を翻さなかった。

 後に、他の弁護士とともに、業者の店長に聴きとりをしたところ、家主が入居を拒否した理由は国籍によるものであると明言した。この点を踏まえて、家主に話し合いの場を持ちたいと提案したが、家主はこれも拒否した。代わりに知人の不動産業者が仲介することとなったが、その後、当該不動産業者は、拒否理由として、当該物件が「ファミリー限定」であったためと主張した。しかし、提携業者の物件案内には「友人同士の入居可」と記載があった。この点と先の主張とが齟齬するため、改めて家主と面談をしたところ、家主はかかる記載については提携業者が無断で記載したものと主張した。そこで、家主および大阪市を被告として、2005年11月17日に提訴した。

 家主の責任としては、憲法第14条1項のほか、自由権規約・人種差別撤廃条約の平等権規定・人種差別禁止規定に違反すること、社会権規約にいう「相当な居住」についての権利を侵害したため、損害賠償責任を負うことを主張している。

 他方、かつての入居拒否事件においては、仲介した宅建業者が差別的な対応をしたこともあり、宅建業法上の監督機関である都道府県の責任を問うていたが、本件では提携業者が被告家主に対して説得を試みるなど、大変協力的であった。そこで、行政機関については、宅建業法に基づく監督責任ではなく、社会的差別を撤廃する責務を地方公共団体も負っているとする人種差別撤廃条約上の規定を根拠として、条例制定を含む差別撤廃措置をとらなかった不作為について、大阪市の責任を追及している。

徳島自衛官差別発言事件について

大川 一夫さん(弁護士)

 原告、被告ともに、海上自衛隊の自衛官であった。被告Aは、スナックにおいて原告の面前で、部落民一般に対する差別発言をしたことを契機に、一連の差別発言を行った。その際部落出身である原告は、差別発言をやめるよう忠告を重ねたが、被告がこれを聞き流すような態度に出た。これに耐えかねた原告は、自らが部落出身であることを打ち明けたところ、「あっ、そうなの」と述べただけで、真摯な謝罪を言葉や態度で示さなかった。また、原告がどのようにして差別発言の内容について知るに至ったかを問い質したところ、高知にいる義母や妻である被告Bに聞いたなどと答えた。

 その後も、真摯に謝罪することなく経過し、何度となく解決に関するやり取りが続いたが、原告に対して真摯な謝罪が行われることはなかった。しかしながら、被告Bは、誤った認識を改め、真摯な謝罪を求めた原告の求めを、かつての上司であった呉総監部の先任伍長に相談したところ、当該先任伍長は「恐喝、脅迫ではないか」と助言したため、原告は、恐喝の存否についてある副長から尋問を受けるなどした。これら一連の事実について、原告は、差別発言や誣告に対する謝罪、反省文の作成、事実解明をしなかったことを理由として、慰謝料を求める旨の調停を申し立てた。しかし、両者間の合意成立の見込みがないものとして、不成立となった。

 その後、原告は改めて徳島地方法務局に人権侵犯事実を申告して、救済を申し立てたが、被告Aについて人権侵犯の事実を認めて説示をし、Bについては事実不明確の決定をし、部落問題の正しい認識に努めるよう啓発を行ったが、原告に対する対応がなく、ついに訴訟を提起したものである。

 この事案において裁判所は、差別発言と、それについて真摯な謝罪をしなかったことに対し、違法行為があったして、不法行為を認容した。この点は評価はできる。

 しかしながら、事実認定においては、いくつも誤りがあるが、中でも重要であるのは、1)被告が原告に対して「反省文」を作成してもいないのに、作成し、手交しようとしたと認定していること、2)原告の側から、金員の要求をしたことはないのに、したかのように認定していること、である。

 控訴審においては、これらの事実認定の誤りの他、慰謝料の額が低いこと、被告Bの責任を認めなかった点を覆すよう取り組む必要がある。

(文責:李 嘉永)