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2006.04.28
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法律・狭山部会・学習会報告
2006年01月26日
大東市眼鏡店入店拒否事件 第1審判決について

大橋さゆり(弁護士)

事案の概要

 アフリカ系アフリカ人の原告が、アジア系の友人とともに眼鏡店店頭でポスターを見ながら談笑しており、当該友人が眼鏡の購入を希望し、視力検査のために費用がかかるかどうか疑問に思ったため、ドアに近づいたところ、当該眼鏡店店主である被告が出てきて「出て行け!コクジンキライ!ドア触らない、ショーウィンドウ触らない。ジャマ、無理!」と言いながら両手で追い払うようにして店頭から離れさせ、入店を拒否した。その後、原告はその日本人配偶者とともに被告店舗に赴き、訴外マネージャーに事実を確認したところ、同人は事情を把握していないとした。

  そこで原告らは後日改めて被告に面談し、事情を尋ねたところ、当日は「女性から電話があって、被告店舗に入りたいのだが被告店舗前に『変な』人がいて雰囲気がおかしいから、被告店舗に入るのをやめる」という電話があったので、原告らに店舗前から離れてもらったと主張した。また、同時に被告がドイツにいたときに、「黒人から嫌な思いを受けた」ということも話した。

 これらの言動は、原告の肌の色をもって公の用に供する施設の利用を拒否する点で、不合理な差別にあたり、憲法14条1項、自由権規約26条、人種差別撤廃条約2条1項d、および5条fに違反するとして提訴するにいたった。

黒人差別についての学習

 この裁判に取り組むに当たり、外国人差別に関心を持つ弁護士が集まったが、日本における黒人差別の実態、ないし黒人差別の歴史について、掘り下げて学ぶこととした。原告が出身地でKKKの関係で受けた被差別体験に学び、また黒人差別に関するいくつかの書籍や、「アミスタッド」という奴隷解放以前に反乱を起こした黒人奴隷たちを無罪に導いたという物語から、現在に至るまでの黒人差別の状況を共有した。

判決の特徴

 まず判決は、法律構成について、「原告が黒人であることを理由として被告店舗への入店を拒否したのであれば、その行為は、憲法14条1項、国際人権規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)26条、人種差別撤廃条約(あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約)2条1項d、5条fに違反するものであり、これらの規定が一般私人間で適用されないとしても、これらの規定は、法律の一般的抽象的条項の解釈基準となるものであって、そのような行為は、原告に対する不法行為を構成するというべきである」と端的に認めた。これは、浜松宝石店入店拒否事件や、小樽公衆浴場入店拒否事件などの判例を踏襲するものであり、この点は、積極的に評価できよう。

 しかしながら、事実の認定において判決は、原告の日本語能力について疑義をさしはさみ、かつ極端な論理をもてあそんで、人種差別の存在を否認した。

 まず、原告の日本語聞き取り能力を認めず、差別発言を聞き取れたわけがないとした。その根拠としては視力検査費用について問い合わせた日本語がこなれていなかった点であるが、聞き取り能力と会話能力とを混同する点で、きわめて不当である。

 また、後日被告店舗に赴いて「外国人を差別することがありますか」と尋ねたことが、不自然であると断定した。というのも、黒人差別の歴史からすると、「黒人差別発言をしたでしょう」と糾弾するはずであって、そうしていないから、「実は最初は黒人差別だとは認識していなかった」と論ずるのである。しかしこの判断は、差別発言を受けたすべての人が、その不当性を指摘できるわけではないことを看過するもので、甚だしい無理解・偏見がある。

 さらに、当初の論点が、「原告が黒人であることを理由として被告店舗への入店を拒否した」かどうかであったにも関わらず、「差別発言があったか否か」という点に矮小化され、判決は「どのような理由で入店を拒否したか」という入店拒否の動機については一切触れていない。これは、「『黒人』という発言をしなければ、追い払っても違法とはならない」という規範的効果をもたらしかねない問題判決であるといわなければならない。

(文責:李嘉永)