1.条例の意義
この条例が出来たこと自体は高く評価すべきである。この条例の意義としては、まず個別型から包括型へというものがある。これまでは子どもや女性、障害者といった個別人権課題の条例はあったが、包括的に差別や人権侵害行為を規制する条例はなかった。
第二に、理念から禁止へという点である。理念的に差別・人権侵害はいけないという条例は数多いが、明確に法的な禁止を定める条例は少ない。この条例は幅広く差別・人権侵害行為を禁止し、救済の対象としている。
また、任意から強制へという側面についていえば、最後の拠り所として幾分強制的な側面を備えた救済手法は必要であろう。
さらに、オンブズパーソンから委員会へ。これまでは比較的オンブズパーソン型の機関を置くものが多い。しかし、人権問題は多種多様な問題を抱えているので、合議制の委員会型のほうが実効的解決に適している。
最後に、苦情処理から救済へという側面がある。これまで自治体が実施してきた救済は、苦情処理という側面が強く、聞き置くだけの相談や、救えるものだけの救済が非常に多い。
2.条例の課題
この条例は、「人権侵害救済推進委員会」を設置し、被害者が申立を行い、委員会が必要な調査を行った上で、救済策をとるということになっている。さらに訴訟援助も行いうる。
では、この条例が他のものと比較した際にどのような課題が見えてくるであろうか。
まず第1に、人権侵害の範囲や差別禁止事由の範囲についてである。救済対象となる人権侵害をみれば、鳥取の条例は、人権擁護法案を下敷きにしている事がわかる。違いを一つ挙げれば、「対価を得て差別禁止事由に係わる情報を収集する行為」(身元調査)を含めた点は評価されるべきであろう。一方で、人権擁護法案の域を出ていない点は問題となり得るし、欠点をそのまま引き継いでしまうという問題もある(誹謗中傷行為など、マスメディアの報道の自由などとバッティングするような行為を救済対象としている点など)
差別禁止事由については、人権擁護法案と全く同じである。憲法上の事由に加え、4項目を挙げている(民族、障害、疾病、性的指向)。これ自体は高く評価されるべきであるが、それだけで充分か、という問題がある(特に国籍差別)。
手続の問題については、人権擁護法案と類似しているが、幾つかの違いがある。一つには、研修等への参加勧奨が含まれている。諸外国には、とりわけDVの加害者に対し、何らかの心理カウンセリング受診を命じる権限を認める例がある。
救済機関の構成については、5人となっており、決して少なくはない。しかし、人権問題の多様性を考えた場合、果たしてどうかという問題はある。また、人材についても多元的、多層的なものとすべきであろう。ジェンダー・バランスを保つための条文は問題がある。文言上、男性が5人でも要件が満たせることになってしまう。
また、政策提言機能が非常に弱い。この機能は、パリ原則でも重視されている。しかし、人権擁護法案は半ば無視しており、その悪い部分を引き継いでしまっている。
さらに、市民社会との協働・連帯をどう進めるかは全く示されていない。人権救済においてNGOや当事者団体との連携は欠かせない。上手く行っているところは、NGOとの協働が密接である。これが何も触れられていない。また、市民の側が委員会について意見を言うということも条例上定められていない。そういった市民のモニタリングの対象とするという緊張感の下に置くことも必要である。そうでないと、役所内の一窓口になりかねない。
3.まとめ
このような救済の仕組みは、人権のまちづくりとの関係でも重要である。日常的な差別や虐待は、地域ごとに救済していくことが必要である。また、条例の作り方にしても、知事のリーダーシップのもとで作られたが、市民との対話を幅広くすべきだったのではないか。それゆえに、人権バッシングの格好の対象になっている。市民の支持が強ければ、腰砕けにもならなかったのではないか。
また、第一義的には、当事者による自主的な解決を重視すべきであろう。それをエンパワー・サポートし、それで充分でなければ行政的に解決するという手法をとるべきではなかったか。当事者間のネットワークのハブとして機能すべきであろう。