〈第1報告〉
自衛官であるAは、同僚らと居酒屋でカラオケをしていた際、「4つのお願い」という曲が流れたところ、「これをリクエストするのは部落民」などと発言し、その後2回に渡って、部落を愚弄する発言を行なった。後に、部落出身者であるHさんが自らの出身を明らかにしながら抗議したところ「あ、そう」と応答した。その後粘り強く交渉したところ、偏見の内容については妻であるBないしその親から聞かされたとのことであった。Hさんが善処を求めたところ、「問題にするのはやめてほしい」「100万円払うのでどうか」などとした。その間、Bは、自衛隊の上司に対しHさんの働きかけに対して「恐喝ではないか」と通報した。今回の判決は、これらのAの差別発言ないしA及びBの不誠実な対応について、精神的損害を賠償するよう求めた訴訟の控訴審判決である。
原審では、事実関係についてAの主張を一部認容したが、その主張は首尾一貫していない。発言の際に4本指を立てたことについては、法廷では否認したけれども、自衛隊内の調書では記憶が曖昧である。この点は、原審を覆すことができなかった。また、発言の回数も居酒屋のものも含めて被告人は2回だと主張した。しかし、控訴審では3回と認定した。また、差別発言をした動機として、Hさんが偏見を引き出すような質問をしたなどと主張したが、原審と同様、排斥されている。
さらにAは、差別発言の発覚後、6通にわたって反省文を作成し、Hさんに手渡したなどと主張した。しかしHさんはそのような反省文を見たこともなければ手渡されたこともない。つまりその反省文自体がでたらめであり、捏造である。にもかかわらず、原審はAの主張を認定し、「Aなりに反省と謝罪の意思を示している」としたが、控訴審判決も同様の認定をしたようであり、不当である。
不法行為の成否については、原審より増額して40万円としたが、事実認定自体は1審と同様である。
なお、Bに対しては、Hさんの言動を恐喝として申告したのは明らかに不法行為であるが、Bは自衛隊の上司の側の問題だと主張し、原審はその主張を全面的に認定した。また、Bは、真摯な謝罪を行なわなかったが、判決は、Hさんとのやりとりを「解決打開に向けての模索をした」と評価し、「直ちに控訴人に対する不法行為を構成するものとまでは認め難い」とした。
総じていえば、AないしBの事後の不誠実な対応について事実認定を覆すことができなかった。
〈第2報告〉
判決の内容は、9頁と極めて短く、事実についても、基本的に原審と変らない。変った部分としては、さらなる差別発言を改めて認定した。発言回数が争点の一つであったが、発言内容について追加があったということである。
Bの不法行為については、Hさんの主張を汲んで、2点変更したが、極めて不十分なものである。つまり、Hさんの気持ちを逆なでしたと認めたものの、不法行為にはあたらないとした。
判決の評価としては、「部落差別発言」を違法としたことくらいしか評価できない。Bの気持ちを逆なでした部分についても、侵害行為の対応と法益侵害の相関関係によって違法性判断がなされるべきとして、それぞれ主張をしたものの、裁判所に届かなかったといわざるをえない。
なお、討議では、本件判決が、発言の相手方が部落出身者であると知っていたか否かにかかわらず、発言時に部落出身者がいるかもしれないということで、その後の対応ともあわせて不法行為を認めたという点では、意義があるのではないかとの意見があった。
(文責:李嘉永)
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