調査研究

各種部会・研究会の活動内容や部落問題・人権問題に関する最新の調査データ、研究論文などを紹介します。

Home調査・研究部会・研究会活動法律・狭山部会 > 学習会報告
2007.03.29
部会・研究会活動 <法律・狭山部会>
 
法律・狭山部会・学習会報告
2007年02月1日
1.在日コリアン無年金訴訟判決の問題点について

在間秀和(弁護士)

2.在日コリアン無年金問題と国際人権法

菅充行(弁護士)

〈第1報告〉

 1959年に国民年金法が公布・施行され、国民皆年金体制が整備された。この制度は、20歳以上60歳未満の人を被保険者とし、「老齢年金」については、65歳に達した時に支給が開始されることとなっている。但し、その支給は、保険料を25年以上納付していることを条件としている。
 しかしながら、支給年齢に達するまでに25年もない人については、支給条件を満たすことができないため、制度実施日である1961年4月1日現在50歳以上の者は「被保険者ではない」とし、かつ50才以下の者については、納付期間要件の25年を10年(45歳以上)-24年(31歳)と読み替えるという経過的措置を執った。また、50歳を超え55歳未満の人については、任意加入ができるものとした。
 また、高齢者に対する特別の制度として、無拠出の「老齢福祉年金」が創設された。これは、70歳に達したときに支給され、保険料免除期間と納付期間の合計が30年以上であることを要件としている。他方で、施行時に既に70歳に達している高齢者については、特例として支給を行ってきた。また、1961年現在で50歳を超える者についてはあ、70歳に達したときにこの老齢福祉年金が支給されることとなった。
 これらの特例措置は、中高年者の加入を促進するという趣旨から、納付額に比して有利な年金額にしたのであり、また、国民年金制度でも、年金額の3分の1が国庫負担とされており、この場合、仮に貧困のために拠出した期間が不十分であった者が年金支給を受けることができない一方で、拠出をした者のみが国庫負担を通じて援助を受けることができるという不合理な結果となる。そのため、上記のような特例措置が必要とされたのである。
 ところで、国民年金創設当初は、被保険者を「日本国籍」としており、外国人は排除されていた。他方で、戦後GHQは、戦前の厚生年金・船員保険にあった国籍要件を撤廃した。このように、厚生年金については国籍条項がなく、国民年金は外国人を排除するという状況が、1965年日韓地位協定以降も続くこととなる。
 1981年に、難民条約・難民議定書に加入することによって、国民年金制度についても国籍条項を撤廃することとなった。しかし、高齢者について同様の措置を執らなかった。わざわざ「特例措置は一切講じられていない」とする通達を出したのである。この点について、判決は、「老齢福祉年金は過渡的な制度である」から、外国人に支給されることにはならないとしている。
 さらに、1986年に国民年金法が改正され、基礎年金制度が導入された。その際に、被用者の妻が強制加入するに当たって、前述と同様の特例措置を講じて、任意加入期間を加算し、支給開始年齢時に25年となるよう底上げをした。ただしその際には、在日外国人についても算入することとしたが、その期間は、82年以降に留められた。
 このように三度にわたって、在日コリアンが国民年金制度に包摂されていくが、その都度高齢者は排除されてきたのである。このような排除は、平等権を保障する憲法14条等に違反するとして提訴した。
 しかし裁判所は、次のような理由で請求を退けた。すなわち、国民年金創設時に国籍条項を設けたのは、日本人に年金を保障することが急務とされたことに加えて、社会保障の責任は、第一義的にはその属する国家が負うのであるから、憲法14条違反にはならないとした。また、日本国民と外国人とを同等に扱うか否かは立法裁量であって、上記一連の措置にその逸脱は認められないとした。さらに、高齢者に対する経過措置としての老齢福祉年金についても、無拠出制の国家保険を行うのは、第一義的にその者の属する国家が責任を負うとしたのである。
 しかしながら、年金制度の無拠出部分を支える税の負担は、外国人も行っている。にもかかわらず、判決は、租税は一般的なものであるから、社会保険とは直接結びつかないという論理で、原告の主張を排斥したのである。
 このように、なんとも寂しい判決であった。現在最高裁に上告中である。

〈第2報告〉

 国際人権法については、控訴審判決は全く無理解であるが、第一審は、相当踏み込んだ判決をしている。まず、社会権規約の裁判規範性はそのまま認めているし、また、社会権立法は漸進的であってよいが、内容において差別があってはならないという趣旨を明確に述べている。これは、社会権規約委員会が採っている見解と同様であり、進歩があると捉えてよいであろう。
 さらに、国際人権規約が日本について発効したのは1979年であるが、それ以降は、内外人を平等に扱うべきであるので、当該規約発効後、合理的期間を経過しても差別状態を放置するとすれば、規約違反の問題が発生するとしたのである。
 しかしながらその先が問題である。老齢福祉年金の支給については経過措置が全く執られていない。この点については第一報告にあるように、無拠出制の社会保障は第一義的に国籍国が負うべきであるから、日本の責任は二次的であるとし、そのために、立法裁量の逸脱はなく、著しく合理性を欠くわけではないから、裁量の濫用もないとした。
 しかしながら、無拠出制の年金保険は第一義的に国籍国が負うという理解は国際人権法にはない。現にゲイエ対フランス事件において、規約人権委員会は、軍人年金の差別にも自由権規約第26条の適用があるとした。さらに、在留外国人の処遇については、特別の条約が存在しない限り、自国民と区別をする事も許されるとするマクリーン事件を踏襲しているが、しかしこの事件は、人権規約締結以前の判決である。その特別の条約に自由権規約が該当するというべきであるが、今回の判決も、理由をふすことなく「特別の条約には当たらない」という議論を行っている。意味不明である。
 なお、無拠出制の社会保障は国籍国が負担するという議論は、実定法上根拠がなく、現に無拠出制の最たるものである生活保護は、日本に住居を有する外国人にも支給されている。このような議論は、宮沢俊義の教科書に書いてあるだけのようである。(文責:李嘉永)