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人権部会・学習会報告
2000年4月6日

「JR尼崎駅等連続差別落書き事件」の取り組み

(報告)細見義博(部落解放同盟尼崎市連絡協議会)

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97年の6月からJR尼崎駅を中心に差別落書きが連続して発見され、西は鳥取県から東は栃木県にいたる広範囲に、今日まで90件を越える件数が確認されている。尼崎市連絡協議会は、尼崎市はもとよりJR西日本などの協力を求めながら「実行者」を突き止めていき、約úJ年半後にN市に在住する人物を特定することが出来た。

 ところがこの「実行者」が精神科の治療を受けている精神障害者ということが判明し、落書き行為を止めるだけでなく、地域における支援体制や精神障害者に対する社会的バリアを取り除く目的で、「対策検討会」を医療関係者や関係団体の参加のもとで設置した。

 「対策検討会」のメンバーは、保健福祉業務に携わる「兵庫県立精神保健福祉センター」、障害者の人権に取り組む「兵庫県精神医療人権センター」、兵庫県のN保健所、尼崎市とN市の人権・同和行政、健康福祉担当者、当事者団体である「障害者問題を考える兵庫県連絡会」(県障問連)、そして部落解放同盟兵庫県連、尼崎市連協、N支部で、99年の6月から約2ヶ月ごとに開かれ、現在まで5回を数える。

 実行者は「アスペルガー症候群」(高機能広汎性発達障害の1つ)という病名で人とのコミュニケーションがとりにくい性質をもつ。本人は尼崎市に住んでいるときに、在日コリアンの子にいじめられ、部落と在日コリアンに対して強く意識するようになったという。97年5月の神戸の幼児殺害事件に誘発されて落書きを書き始め、大きな事件があったり、就職出来ないなどつらいことがあると、いじめの体験が頭にフラッシュバックしてきて書いてしまうともいう。博覧会や催し物が好きで開催される地方へ出かけて書くので広域差別事件となっている。

 この「対策検討会」を発足させてから、以前のように落書きを頻発して書くことはなくなったが、依然として落書きは続いた。そこで、主治医とも連絡を取り合い家族との了承を得て本人と会い「説諭」をしていくことになった。

 会って話をしてみると、本人の意識の中にナチスばりの「優生思想」がかいま見られ、自己の否定と共により立場の低い人に対する差別意識が見られた。

 その意識がどこから来ているのか。「いじめ」の体験や病気からくる被害者意識を解明しながら、障害者団体との連携や精神障害者に対する差別意識の解消をめざして今後とも取り組みを進めていきたい。(細見義博