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人権部会・学習会報告
2000年7月26日

憲法改正論議と日本の人権

(報告)江橋崇(法政大学教授)

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 社会制度やその改革を考える際には、主義主張、政策的思考、政治的戦略の三層構造で考えなければならない。これまでの憲法改正論議は主義主張、つまりイデオロギーの対立だけで争われていた。しかし主義主張をぶつけ合うだけでなく、互いに譲り合って現実的政治課題として21世紀に向けた憲法についての論議を行った上で、必要があれば憲法改正も視野に入れていけばいいのではないか。

 憲法改正には、米国憲法と同様に増加改正という方法を提唱したい。現行憲法は全文残したまま、必要な部分につき「修正」として条文を付け加えていく方法である。また、憲法改正に際して強行採決をしないという約束を連立与党にさせることも提唱したい。強行採決をしないとなれば多くの人が賛成できる部分しか改正できなくなる。言い換えれば、憲法はそういう部分しか改正してはならないのである。

 たとえば憲法9条の関係では、与野党で合意できる接点がなく、政治的にまとめることはできないだろうから、平和基本法などで対応するのが良いのではないか。

 人権については、できれば憲法を追加改正して国際人権法について明記した方がいい。その方法は、人権条項を、いくつかの国に見られるように世界人権宣言、国際人権規約などでいう人権は憲法の人権であるとする「みなし規定」としておくか、あるいは憲法98条2項の条約、国際慣習法の尊重をもう少し具体的にし、3項として規定するかであろう。

 戦後、憲法の人権規定によって日本の人権状況が良くなったのは確かである。しかしそれは多くが上からの人権だった。生活保護などの社会権が「全体の利益を考えて特定の個人に与える作用」という意味の「措置」として上からばらまかれてきた一方で、自由権は「公共の福祉」という言葉を理由に、国にとって都合の悪いものが切られてきた。また、戦後日本の人権論は国の立法・行政責任を無視してきた。しかしそれに対して差別の実態を突きつけ、差別撤廃のための行政の責任を明らかにしてきたのが部落解放運動などの人権運動であった。

 人権とは、上からのものではなく、下からの要求に応じていくものでなければならない。

 この点について今後、鍵になるのは、人々が人権に関してどういう苦情や意見、要求を持つかということだろう。社会生活の中での人々の要求を実現していくことが、政治や憲法のあるべき姿だと思う。(河 昭子)

※世界人権宣言大阪連絡会議の第209回国際人権規約連続学習会の講演内容を合わせてまとめています。