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人権部会・学習会報告
1998年10月21日
インターネットと人権

(報告)浜田純一(東京大学社会情報研究所所長)

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 インターネットは90年代半ばから急激に普及し、現在国内での利用者は1000万人を超えるといわれ、極めて普通のメディアとなりつつある。だからその中での人権侵害の問題には相当真剣に取り組まねばならない。

 インターネットやパソコン通信などの持つ特性は、これまでのメディア以上に深刻な害悪を生み出す可能性がある。個人が容易に、広範に情報を発信・入手できるということは良い意味で革命的でもある。しかしそのために、これまで情報を発信する際に必要だった一種の表現に対する覚悟が非常に軽くなった。

印刷・放送といったメディアであればプロとしての責任観、倫理観や経営的な考慮によって出されなかった表現であっても、個人がごく簡単に思いついたことを一時の感情で発信し、名誉毀損やプライバシー侵害につながる表現、性表現や差別表現が安易に流され、被害をおよぼすようなことも起きうる。

 さらに、表現の自由との兼ね合いから、現在、ネットワーク上は匿名性であるため、悪質な情報であってもその発信者を特定することが難しく、責任を追及しにくい。そのため、実名でないとネットワークを利用できないようにしようという考え方もあるが、表現の自由の問題を考えると、実名を出すことは表現を抑止することになりかねず、議論となるところである。

ただ、昨年5月、パソコン通信での名誉毀損事件について、発信者だけでなく、プロバイダーといわれる接続事業者などの情報の管理者も責任が問われるという判決が出ている。

 差別表現の問題に限って考えた場合、すでに非常に悪質なケースがいくつかでてきており、取るべき対応について議論は行われてきている。その中では、どういう内容の表現を処罰の対象として考えるのかという線引きの問題、軽い刑事罰では抑止力に限界があるので、それよりは教育・啓発が必要であるという議論がある。しかし私自身は、デモ行進の規制などをする公安条例など、すでにある表現の自由の規制法規をみても線引きは非常にあいまいなものもあるし、刑事罰が課せられれば軽いといっても抑止効果は十分にあるのではないかと考えている。

 特に、ネットワーク上で「どこに被差別部落がある」といった内容を流すなどの差別情報による被害は非常に深刻なものがあると思われるので、刑罰を担保にした規制も含めて法体系が構想できると考えられる。

(栗本知子)