調査研究

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2005.04.05
部会・研究会活動 <人権部会>
 
人権部会・学習会報告
2005年3月16日
最近のインターネット上の差別とその原因と課題

田畑 重志(反差別ネットワーク人権研究会代表)

はじめに

  ここ数年のインターネット上の差別事象の動向として、個人を中心としたものから「2ちゃんねる」や「megabbs」など、いわゆる大型掲示板への移行がみられる。具体には、1998年佐賀県で起こった少年によるバスジャック事件で犯行声明が「2ちゃんねる」で書き込まれて以降増えてきている。「2ちゃんねる」が何を書いてもいい場所であるという評価から問題になってきた。

  『全国のあいつぐ差別事件2004年度版』でも紹介しているが、2003年4月から2004年3月までの間、がインターネット上での差別事象について347件確認されている。2002年度が259件確認されているので88件増えている。内容は、「2ちゃんねる」や「megabbs」などの大型掲示板での差別書き込みが223件、部落地名リスト専門の掲示板が100件、部落解放同盟兵庫県連を中心に取り組まれた尼崎市職員への差別書き込みについて10件などである。

2つの聞き取り調査

  2004年9月から2005年2月にかけて、インターネット上の人権に関して2つの聞き取り調査をおこなった。ひとつは、出会い系サイトの女性対象にした調査で、この人たちがなぜこのようなサイトを使用しているのか、調査を依頼した130人のうち実際に応じてもらった50人に聞き取りをおこなった。50人のうち8割は「みんなやっているから」ということで出会い系サイトを使用していた。残りの2割は「生活のため援助交際を含めてやっている」ということだった。

  もうひとつの調査は、差別的な書き込みをしているサイト内へ呼びかけたもので、大阪、京都、名古屋など5ヶ所のサイト200人ほどに会って聞き取り調査をした。年齢的には小学生から大人までで、「なぜこういう(差別的な)書き込みをしているのか」という問いに対して160人が回答してくれた。そのうち5割が「みんなやっているから、その仲間に入りたかった」という回答で、そのことに対する罪悪感はもっていなかった。そして、3割の人は「車をここ(同和地区)へ駐車していたら部落の人に文句を言われたということを伝え聞いた」などの、社会通念上の差別意識をもっていた。残りの2割は明確な回答がなかった。

  また、そのうち大人に対して自分の子どもの携帯電話の有無について聞いたところ全員が「もっている」と回答しており、子どものインターネット上でのトラブル等については1割の人しか状況を把握していなかった。

差別書き込みの内容

  一番多いのは地名リストについてであり、自分の親などにどこが部落かと聞いたらすぐに教えてくれる、その内容は未指定地域を含めての情報もある。はじめに紹介した347件の差別事象のうち約6割が部落地名リストに関係したものである。同和行政批判はいっときに比べてその割合が減少しており5%である。そして、個人に対する誹謗・中傷は2割強の割合である。

  また、部落問題以外の差別書き込みについては、133件で、とくに拉致問題がマスコミ等で大きく取り上げられるようになって以降、朝鮮人学校に対する嫌がらせ的なものだけでなく、脅迫内容まである。

  2003年度で一番問題になったのは、「新地名総鑑0.05版」であり、大阪、京都、奈良等でよく書き込まれていた。その他、熊本県の黒川温泉問題でのハンセン病回復者に対する差別書き込みや長崎県での男児殺害事件、長崎県佐世保市での女児殺人事件に関する差別書き込み等がある。

  さらに、携帯電話でのチャットでの差別書き込みが増えている。2003年度に私(田畑)のところへきた差別書き込みについての相談3000件のうち1600件が携帯電話による書き込みの相談であり、それまでに比べて際立って多くなっている。

  2004年度は現在把握しているだけで、差別的なホームページの存在が302件あり、携帯電話に関わる800件の相談のうち、200件が差別的な書き込みである。さらに、2003年度は確認していないが2004年度には地名リストがらみで結婚差別を受けたという相談が5件ほどある。

これからの問題意識

  これらの問題に対して単なる心の問題や個人の意識として考えるのは間違っており、社会的な問題として認識して教育なり啓発を進めていかなければならない。

  ひとつは、差別書き込みなどに対する監視ネットワークの構築がある。監視作業は個人では限界があり、ネットワークづくりと情報の共有化をどう構築していけばいいのか、大きな課題である。2つ目は、学校教育の現場での教材化やプログラムづくりがある。3つ目には、大人への調査とその分析作業がある。こういったことをこれからの活動の柱として取り組んでいきたい。

(松下 龍仁)