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2005.09.13
部会・研究会活動 <人権部会>
 
人権部会・学習会報告
2005年8月5日
『裁判員制度』について〜評価と課題

丹羽 雅雄(弁護士)

はじめに

 2004年5月21日、「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」(裁判員法)、「刑事訴訟法等の一部を改正する法律」(改正刑訴法)がともに参議院本会議で可決・成立し、5月28日に公布された。

 刑事裁判の迅速化と効率化を図るための改正刑訴法は、2005年11月1日から先行して施行され、裁判員法は、遅くとも2009年5月までに施行される。

 日本では、1928年から1943年まで刑事訴訟事件の一部について陪審制度が実施されていたが、戦争中の1943年に法律により停止したままになっている。戦後占領下の沖縄で米国の軍政下にあって陪審裁判が行われていたことがあるが、復帰後は陪審制度による刑事訴訟は行われることなく現在に至っている。

 民法典等の編さんから約百年、日本国憲法の制定から五十余年が経ったいま、(1) 21世紀の日本社会において司法が果たすべき役割、(2) 国民が利用しやすい司法の実現、(3) 国民の司法制度への関与、(4) 法曹の在り方とその機能の充実強化を検討するため、1999年に司法制度改革審議会設置法にもとづく審議会が発足し、63回の会議を重ねて2001年に意見書をまとめた。

その意見書の中で司法への国民の主体的参加を得て、司法の国民的基盤をより強固なものとして確立するために提言したのがこの「裁判員制度」である。

 民主主義憲法をもつ先進国のほとんどで司法への国民参加が行われており、政治改革、行政改革が進められてきた流れの中で、司法への国民参加を求める今般の司法制度改革は、これらの諸々の改革を憲法によって立つ基本理念の一つである「法の支配」の下に有機的に結び合わせようとするものであり、まさに「この国のかたち」の再構築に関わる一連の諸改革の「最後のかなめ」として位置づけられるものであるとしている。

裁判員法のあらまし

裁判員法は、法律の専門家でない国民が裁判官と一緒になって裁判をすることによって、国民の感覚が裁判の内容に反映され、司法に対する国民の理解と信頼がより高まることが期待されると第1条で法制定の趣旨を規定している。

裁判員は、衆議院選挙の有権者から無作為に選ばれた国民が一定の選任手続を経て裁判員になり、第一審の刑事裁判で、裁判官と一緒に、殺人や傷害致死など重大事件(法第2条)を審理し有罪無罪を判断、刑の種類と刑の重さを決める。一つの裁判ごとに裁判員候補者が何十人か呼び出され、そこから原則6人が裁判員に任命されることになっている。

どのくらいの確率で裁判員候補者に当たるかというと最高裁の試算では全国平均で約330人から660人に一人の割合だとしている。(確率が高いとされる大阪地裁管内では1年間に有権者約400人に一人の割合で呼び出される。)このように裁判員裁判にかかわりを持つ確率は案外高いし、裁判員を辞退することに正当な事情があると裁判所が認めない限り原則として辞退できないことになっているので、「裁判員なんて自分には関係ない」と安閑とはしておれない。

もしも裁判員に選ばれたら

 裁判長から、裁判員になれる条件を備えているか(例えば、被告人や被害者と関係が無いかどうか、不公平な裁判をするおそれがないかどうかなど)、辞退希望がある場合にはその理由などが質問される。

そのほか法に定める一定の選任手続を経て晴れて裁判員に選任されると、刑事事件の法廷(公判)で裁判官と一緒に立ち会い、判決まで関与することになる。公判はできる限り連日開廷され、証拠調べや、証人や被告人質問に立ち会う。裁判員は、証人等に質問もできることになっている。

証拠調べが終わると、事実認定に入り、被告人が有罪か無罪か、有罪だとしたらどんな刑にするべきかを裁判官と一緒に議論(評議)し、決定(評決)する。評決は、多数決で決めるが、裁判官、裁判員のそれぞれ一人以上の賛成が必要条件とされている。評決内容が決まると、法廷で裁判長が判決の宣言を行う。これで裁判員としての仕事を終えることとなる。

裁判員制度の課題

 国民主権を真の意味において実現させるために導入した裁判員制度を成功させるためには、克服しなければならない課題も多い。

 法律用語を解きほぐし、いわゆる「調書裁判」と皮肉られている裁判の進め方を証人尋問中心の裁判に改め、裁判員が実質的・主体的関与が可能となるようにする必要がある。国の内外から「人質司法」と批判されている逮捕から起訴後拘置まで長期間にわたり被疑者・被告人を身体拘束する現状を改めないと迅速かつ公正な裁判員裁判は実現できない。

 また、一般市民を日常生活から引き離し、仕事を休み一定期間裁判所に出頭して義務を果たすことになるので、裁判を短く、数日で判決を出す工夫をする必要がある。

更には、公判前整理手続の在り方、裁判員の守秘義務範囲の明確化、制度の趣旨理解と参加意欲を高めるための法教育や広報活動の推進が求められる。

(文責:事務局)