〈第1報告〉松下さん
字数の関係上おもな事件の概要のみを以下に紹介する。
全国大量連続差別投書・ハガキ事件 2003年5月から東京を中心に全国の被差別部落出身者や団体に450件以上の露骨な差別ハガキ・手紙等が送りつけられた事件は、2004年10月に犯人が逮捕され、2005年7月、東京地裁は脅迫罪、名誉毀損罪、署名偽造・同使用の罪で懲役2年の実刑判決を言い渡した。判決に対する分析として友永健三当研究所所長は、<1>最大の問題として部落差別に基づく事件であったという点が直接裁かれていない、<2>犯人が事件を引き起こした原因が解明されていない、<3>人権侵害事件を起こしている刑務所内での矯正教育による犯人の人権教育が育まれるとは思われない、<4>被害者救済について明確にされていない、<5>法務省は犯人逮捕の決定的役割を果たした解放運動等の取り組みを評価して敵対路線を見直すべきである、と指摘している。
差別投書・落書き・電話 東京、京都、和歌山、徳島、高知などでは長期間にわたる同一犯による差別落書きが続いている。とくに高知市内では過去15年間に105ヶ所で事件が発生しており市議会でも対策について質疑がされている。また、いわゆる「平成の大合併」といわれているこの間の市町村合併にかかわっての差別投書等が岐阜、滋賀、兵庫などで発生、さらに長野では部落かどうかの問合せ電話も報告されており、一般地区住民の部落に対する「忌避意識」の深刻さが窺える。
地域社会での差別事件 埼玉、長野、高知でそれぞれ病院内で差別発言事件が起こっており、ここでも「忌避意識」とこれまでの人権啓発の取り組みの課題等が浮き彫りにされている。奈良では市議補欠選挙の投票用紙に差別記入が発見され、兵庫では学校管理職の母親がその息子の話題の中で差別発言が発生している。
就職差別事件 大阪では、差別面接をうけた当事者の告発によって事件が発覚したが、事実糾明の過程において、採用する側とされる側という力関係の中では泣き寝入りしてしまうという状況が明らかになった。なお、この事件は差別面接をおこなったその後の事実関係の確認の際に社長が開き直ってしまっている。
会社・職場での差別事件 大阪で、コンピュータ関連会社の社員が会社を困らせるために差別ホームページ、差別メールを発信していた事件は、糾弾会の中で会社自身も犯人が自社社員と判明するまでの協力的姿勢から翻した姿勢を指摘されている。 埼玉では、会社社員が雑談の中で市町村合併にかかわって差別発言を、また病院内で看護師が差別発言をしている。それぞれ事実糾明の中で、市民啓発の研修等をうけていなかったことが判明、人権啓発の課題が指摘されている。 滋賀では不動産関係会社社長が町役場に同和地区かどうか問合せの電話をしていた事件が起こった。この社長は第1回確認会で事実関係を否定、行政によるデッチ上げと主張している。この他、千葉、長野、奈良、岐阜等で事件が報告されている。
公務員による差別事件 高知県が出版した冊子に古文書の賤称語がそのまま掲載されていたことが判明、県連はその後の県の対応姿勢について協議を求めている。
結婚差別事件 京都で父親が息子の結婚相手の戸籍謄本等を入手し、反対するという事件が発覚、調べられた女性は自らが部落出身と知らずショックを受けている。事実解明の中で戸籍謄本等が取得資格のある8業種のひとつ司法書士による不正入手によるものと判明、現行の戸籍制度そのものの欠陥と、制度改革の必要性が指摘されている。その他、兵庫では2件事件が報告されている。
教育現場における差別事件 長野、滋賀、高知で生徒による差別発言が、また長野、京都、大阪、鳥取、高知で落書きや貼り紙が発見されている。この他、大学教授選考にかかわって部落差別を利用した差別ファックスが送りつけられるという事件の糾弾会後進展しない学内調査から同大学の人権啓発・教育の不十分さが指摘されている。
宗教界での差別事件 差別戒名関係寺院研修会で「寝た子を起こすな」論や潜在している差別意識等の意見交換がされている。
マスコミ・出版界における差別事件 朝日放送の「サンデープロジェクト」で出演者らによる部落差別発言が起こった。同番組途中ならびに2回目の放送の際に謝罪がなされ、その後も解放同盟との意見交換がおこなわれている。解放同盟の北口中執は番組への関心を高める手段として部落差別を利用していることや、被差別部落がまるで殺人集団だと印象付ける悪質な発言であることを指摘している。
〈第1報告〉田畑さん
田畑が把握しているだけで、2004年度のインターネットにおける事件は354件発見されており、前年度とほぼ横ばい状態である。とくに顕著だったのは、うち196件が携帯電話からの書き込み等があるということと、若年層増加の傾向がいえる。
内容では、引き続いて「新・部落地名総鑑」が根強く掲示されており、今後このような書き込みから新たな地名総鑑事件が危惧される。また、偽のホームページを作成して企業等を困らせようとした事件は、やはり偽のサイトを開き個人情報を収集したりする、いわゆるフィッシング詐欺の手口とも似ており、今後増加の可能性のある悪質な手口である。
2004年8月から2005年6月までに2つの調査をおこなった。ひとつは差別書き込みについてであるが、ここでは「ネタ」的に差別書き込みをする当人たちはなんらの抵抗も覚えておらず、教育的側面からの取り組みが課題としてある。もうひとつは出会い系サイトについて40代以上の女性を対象に利用の理由を尋ねたところ「みんながしているから」という回答が多数を占めた。両調査とも差別的もしくは危険「誰もがしているから」「人に勧められたから」等の理由で利用しているケースが多くみられた。
研究所ホームページ等のようにインターネットを活用した人権情報発信がおこなわれているが、反面、規制・救済のついての対策が後手に回ってしまっているという課題がある。また、全国的な人権ネットワークの構築と情報の共有という課題もある。