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2006.09.15
部会・研究会活動 <人権部会>
 
人権部会・学習会報告
2006年8月9日
戸籍法見直しに関する中間試案について

二宮 周平(立命館大学)

1.戸籍公開制度の改正経過

  1871年に壬申戸籍が制度化された際には、戸籍は非公開とされていた。しかし、1898年の改正によって、公開原則が採用され、その後数度にわたって、公開制限が行われ、特に1976年の改正では、閲覧制度が廃止され、また交付請求についても、その事由を明示することとし、不当な目的である場合には、請求を拒み得るとしている。なお、かかる請求事由明示を免除される場合があり、本人(及びその配偶者、直系尊属・卑属)、行政並びに8専門資格者が、その職務上、請求できることが認められている。

2.今次の見直しの背景

  上記のような公開制度を一層制限する今般の改正の背景には、何をおいても、弁護士、司法書士、行政書士など、いわゆる8専門資格者による戸籍謄本等の不正入手事件が挙げられる。友永所長の整理に拠れば、8資格者のみならず、興信所が職務上請求書を不正に入手して請求するケース、本人の委任状を偽造するケース、さらには警察官や市町村職員が行政の立場を悪用して入手するケースも見受けられる。

  また、個人情報保護法の全面施行によって、個人情報の第三者提供について本人の事前同意が必要となったり、開示・訂正・利用停止請求が認められるなど、いわゆる「自己情報のコントロール権」が制度上認められ、個人情報保護の考え方が広く浸透したことも、ひとつの大きな要因としてあげることができよう。

3.利用実態

  戸籍利用統計によれば、戸籍事務処理件数は年間総計で約3600万件であり、記録事項証明のうち全部が76.7%であり、謄抄本交付請求のうち謄本交付請求が82.2%をしめている。戸籍の請求者別の交付請求状況は、本人・配偶者等が83.4%、行政等が7.6%、弁護士等が7.7%である。また除籍については、それぞれ55.9%、17.3%、24.2%であった。このような利用実態、そして不正事件の構図に照らしてポイントとなるのは、本人が知らない間に取得され、差別事象に使用される可能性をいかにして封じるかである。

4.見直し作業開始

  現在、法制審議会戸籍法部会において、戸籍の公開制限ないし本人確認制度の導入を趣旨とした改正作業が進められており、8月末を期日として意見公募が行われていた。その骨子とは、次のとおりである。

(1)交付請求できる場合の限定
(2)理由を明らかにすることなく請求できる者の限定
(3)本人確認、
(4)抄本交付の原則化
(5)交付請求書の開示
(6)制裁の強化

  (2)に関して言えば、戸籍記載者本人に限るか否か、8業種については、依頼者の氏名を明らかにするか否か、使用目的・提出先を明らかにすることで足りるか否かによって複数の案が提示されている。可能な限り範囲を限定する趣旨からも、依頼者氏名を明らかにさせるべきであろう。

  また、(3)本人確認についても、交付請求者本人であることを明らかにすべきとし、代理人等の場合は、かかる代理権限についても明らかにしなければならないとしている。

  さらに(5)交付請求書の開示についても、特段規定しないか、請求書全部開示を規定するかの両案があるが、自己情報コントロール権を全うする意味でも、後者を選択すべきであろう。この他、戸籍謄本等を取得された本人に通知がいく制度の導入を求めていく必要がある。

(文責:事務局)