調査研究

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2007.01.16
部会・研究会活動 <人権部会>
 
人権部会・学習会報告
2006年11月29日
『全国のあいつぐ差別事件2006年度版』の紹介

報告:1.松下 龍仁(部落解放・人権研究所)
2.田畑 重志(反差別ネットワーク人権研究会代表)

〈第1報告〉

戸籍謄本等不正入手・『部落地名総鑑』差別事件

 事件発覚の発端は、2004年12月、兵庫県在住のAさんから兵庫県連への相談であり、そこから神戸市在住の行政書士が2001年から約3年間でおよそ800枚の職務上請求書を使って戸籍等を不正取得、一通3000円で取り引きしていたことが判明。
 さらに、大阪や宝塚市、愛知県、東京都の行政書士による不正入手なども判明してきた。さらに2006年2月には、愛知県名古屋市の大手興信所社長ならびに社員が他人の戸籍謄本を不正取得した罪で愛知県警によって逮捕されている。このような状況の一方、個人情報保護法や探偵業法が制定され、最近では戸籍法改正のための作業も進められてきている。
 差別につながる身元調査お断り運動の高揚など、差別の現実を直視した運動の構築が今後ますます重要となってきているといえる。
 また、大阪府連は3冊の『部落地名総鑑』を回収した。1冊はこれまでに確認されてきたうちの「第8番目」の『部落地名総鑑』のコピーであったが、残りの2冊は新しいもので「第9」、「第10」のものとして確認されている。さらに、2006年9月、部落解放研究第40回全国集会で『部落地名総鑑』のデータを納めたフロッピーディスク、いわゆる『電子版・部落地名総鑑』が回収されたという緊急報告がされた。
 これらは1990年代半ばに入力されたものと考えられている。10月下旬には、インターネット上で部落の所在地一覧ファイルの入手先のリンクが貼られていることが判明した。『電子版・部落地名総鑑』や『部落地名総鑑』などに対する規制ができる人権侵害救済の法律制定が急がれる。

差別投書・落書き・電話

 連続した差別落書き事件が千葉県、神奈川県、長野県、滋賀県、京都府、大阪府、奈良県、鳥取県、高知県で発見・報告されている。
 静岡県と山口県では選挙にかかわって差別文書や差別ビラが掲示され、広島県では合計1万3149枚にもおよぶ差別紙片が大量にばらまかれている。
 和歌山県や福岡県では悪質な差別ハガキ事件が発生・発覚している。福岡県の事件では内容がエスカレートし、脅迫する内容へとなっていっている。当初警察は「全国大量・連続差別投書・ハガキ事件」の場合と同様「差別事件の法律がない」との理由で動こうとしなかった。

地域社会における差別事件

 京都府や長野県、和歌山県では、特別養護老人ホームの入居者が他の入居者に対して差別発言を行なった。施設利用者の問題だけでなく施設側の対応も問われている。
大阪府内のPTA協議会の会合で差別発言がおこなわれており、この事件では市PTA協議会自身が部落差別事件と認識して、事実糾明と再発防止のために啓発用のDVDまで作成するなど積極的に取り組んでいる。

就職差別事件

 東京都高教人権教育推進委員会による「2004年度就職アンケート調査集計結果」では、調査総数661人のうち何らかの違反にあった生徒は3人に1人という数値が報告されている。長野県では職員採用における受験申込書についてのアンケート調査から「あなたのことを十分知っていて、保証できると思う2人以上の名前・住所・職業」を詳しく書かせたり、戸籍筆頭者との続柄を書かせたりしている市町村、面接カードに家族構成、クラブ活動、信条としている言葉、愛読書、余暇の過ごし方を書かせていたり、添付書類に家族調書をつけている市町村、健康診断書で胸囲を聞いたり家族の健康について書かせる市町村まであった。
 2004年の新潟県人権・同和センターの調査では、新潟県内の28市町村が都道府県までの本籍地を、9市町村が地番までの本籍地を、11市町村が家族構成などを、職員募集にあたり書かせていた。他府県でも、違反質問がおこなわれている。。

企業・従業員による差別事件

 東京の会社社員が同居女性にたいして数年間にわたって差別発言を繰り返していた。女性から相談を受けた会社の対応についても、差別は私人間で起こるがその背景に社会があるということを理解せず、単にプライベートな問題として認識していた。
 大阪府内では、製薬会社の新入社員歓迎会の宴席で差別発言が行なわれた。差別発言の制止が茶化した形でおこなわれ、同席者と思われる人からの投書で発覚するまで事件が放置されていた。
長野県では不動産会社社員が町役場に町内の住宅コピーを示し、「部落」「同和」地区を地図上で示してほしいと発言した事件が発生した、不動産業者による差別問い合わせは近年増加の傾向にある。
このほか、東京都では不動産業者が民間住宅の契約更新時に本籍地、国籍欄のある調査用紙を使用していた。さらに保険会社が差別文書を送付していたことが判明している。

公務員による差別事件

 滋賀県で、自治労滋賀県本部女性部学習会の場で市町村合併と関連した差別発言事件が起こった。依然として根強く存在している部落差別意識が表面化したものである。
大阪府では、市役所幹部職員が歓送迎会の場で「全員解放会館送りにしてやる」などと発言した。またこの幹部職員は、日常的にパワーハラスメントを行っていた。
 徳島県の自衛官による差別発言事件では、その後損害賠償を求める訴訟になり、2005年10月、差別発言した自衛官の不法行為を認める判決が行なわれたが、事実認定が誤っており、控訴した。控訴審判決は、自衛官の3回の差別発言を認めたが、そのつれあい、その母親の行為が「気持ちを逆なでするものであっても」、「不法行為を構成するものとまでは認めがたい」として差別者を擁護した。

教育現場における差別事件

 予備校講師による部落差別発言事件に関して、その講師だけでなく、他の講師による部落差別や性的マイノリティにからむ差別講義の多発と、事件が発覚しながら職員に対して一度も人権研修をおこなっていなかったことが判明している。
生徒や児童による差別発言は、長野県、滋賀県、奈良県、和歌山県、鳥取県、高知県、福岡県、から報告されている。

宗教界における差別事件

 京都市内にある浄土真宗本願寺派宗務所、兵庫県にある寺院等に差別ハガキが送られている。さらに、京都市東山区の大谷本廟では差別落書きが発見されている。

〈第2報告〉

 2005年4月から2006年3月の間で、人権侵害事例として報告があった件数は2,143件。うち、部落差別については469件がインターネット上の差別事例として報告があった。今回特に報告があったのは2ちゃんねるよりもmegabbsというページの方で、部落差別事例469件中6割に相当する。

 報告内容では地名リスト関係の報告が圧倒的で、各都府県のみならず、各市町村別に分けて地名リストの書き込みがなされ、その地域の住人しか知り得ないという内容が多々みられた。新しい部落地名総鑑の発見に伴い、今後インターネット上での部落地名リストの存在は新たな部落地名総鑑の資料、情報源として使用されるケースや電子版・部落地名総鑑が多発するケースなどは容易に推察できる。地名リストは年々詳細になり、以前のような漠然としたものではなくなってきていることからも早急な対処が望まれている。

 また、今回もインターネット上の地名リストの存在から結婚差別につながったケースが3件報告されており、破談となった後に報告があった。このような問題に即時に対処していけるように「救済」の窓口をネット上で拡大していく必要性がある。さらに、このような結婚差別に対する対策を早急に考えていかなければならないし、インターネット利用者の年々の増加を考えれば、ネット利用に際しての人権教育がどうしても不可欠である。
(文責:松下 龍仁)