調査研究

各種部会・研究会の活動内容や部落問題・人権問題に関する最新の調査データ、研究論文などを紹介します。

Home調査・研究部会・研究会活動人権部会 > 学習会報告
2007.03.29
部会・研究会活動 <人権部会>
 
人権部会・学習会報告
2007年1月24日
戸籍法改正要綱案の評価できる面と問題点について

二宮 周平(立命館大学法科大学院教授)

1.不正利用の実情

『法務年鑑(平成16年度版)』をみると、2003年4月から翌年3月までの戸籍謄本や戸籍抄本等の交付件数は3674万件ほどになるが、近年、あいついで不正利用事件が起こっている。兵庫県では、神戸市の行政書士が2000年から2004年の間に、興信所6業者から依頼を受け、約1000枚の「職務上請求書」を使って戸籍謄本や住民票などを市町村から取得、業者から1件あたり2500円から3000円の報酬を得ていた。大阪市の行政書士は、「職務上請求書」そのものが100枚約6万円で興信所に売買されていた。また、名古屋市の興信所は、委任状を偽造して他人の戸籍謄本を不正に取得していた。これらの背景には身元調査を必要とする差別意識がある。

2.「戸籍の見直しに関する要綱中間試案」(2006年7月18日)のポイント

「中間試案」では概ね以下の6つの点が盛り込まれている。

  1. 交付請求にあたり、請求できる場合を限定している。
  2. 交付請求にあたり、理由を明らかにすることなく請求できる者を限定している。
  3. 交付請求にあたり、本人確認をおこなう。
  4. 戸籍抄本の交付を原則化する。
  5. 交付請求書を開示する。
  6. 違反に対する制裁を強化する。

3.「戸籍の見直しに関する要綱案」(2006年11月21日)のポイント

上記の「中間案」に対して、「要綱案」では寄せられた364件のパブリックコメント等の意見を踏まえて、以下の4つの点が盛り込まれている。

  1. 交付請求にあたり、請求できる場合を限定している。これは、ほぼ「中間試案」どおりとなっている。
  2. 弁護士等が職務上必要とする場合については、継続の検討課題としている。
  3. 本人確認、代理人・使者の場合は委任状も確認する。あわせて郵送の場合も免許証の写し等を必要とする。婚姻・離婚・縁組・離縁等の届出については、受理後本人に通知する。
  4. 制裁については強化する。ただし、具体的なものは示されていない。

「中間案」と比べると、戸籍抄本交付の原則化、交付請求書の開示の2点および戸籍謄本等交付請求の場合の本人通知制度については盛り込まれていない。

4.「戸籍の見直しに関する要綱案」の課題について

[交付請求(1) … 第三者請求]:「要綱案」に盛り込まれている「第三者請求」の3つの事由を明記、具体的事例を示させていく。
[交付請求(2) … 弁護士等による請求]:弁護士等による請求については、「要綱案」にあるC案の、使用目的および提出先を明らかにした場合には請求理由を明らかにしなくても請求できるものにする。
[要件確認のための資料提示および交付請求者の本人確認等]:とくに、代理人・使者の場合には、代理人・使者自身の本人確認と委任状の確認、郵送による交付請求についても、代理人・使者自身の本人確認と委任状の確認をおこなう。
[戸籍抄本の原則化]:戸籍抄本で対応できる具体的事例を求めていくこと。あわせて戸籍の謄抄本の提出を求めている国、地方公共団体の機関、民間企業等の実態把握と、抄本(個人事項)や記載事項証明書で要件が足りるかどうかの検討を求める。
[交付請求書の開示]:交付請求書に、不正利用の場合、個人情報保護条例に照らし合わせて、利害関係者に交付請求書を開示する旨を記載する。
[本人通知制度]:婚姻等の届出やパスポート取得など、戸籍制度上本人通知制度は存在していること、不正利用の判断を記載された本人が適切かつ迅速におこなうための作業として位置付け、本人通知制度を求めていく。
[制裁の強化]:刑罰化まで含めて要求していく。

(文責:松下龍仁)