調査研究

各種部会・研究会の活動内容や部落問題・人権問題に関する最新の調査データ、研究論文などを紹介します。

Home調査・研究部会・研究会活動人権部会 > 学習会報告
2010.01.18
部会・研究会活動 <人権部会>
 
人権部門研究会報告
2009年9月19日

光州人権事務所の紹介と業務の現状

イ・ジョンガン(韓国国家人権委員会光州事務所所長)

2009年9月、韓国国家人権委員会光州事務所の人権条例研究グループを中心として、日本における人権条例に関する視察が行われた。この機会をとらえて、人権部門研究会において、韓国の国家人権委員会光州事務所の取り組みをご報告いただき、日本における国内人権機関の実現に向けた取り組みに、示唆をいただくこととした。以下が、その報告内容である。

1.光州人権事務所の概要

韓国国家人権委員会は、光州、釜山、大邱に、地域事務所を設置している。主な業務は大きく4つに分けられ、相談、教育、広報、調査である。そのほかにも、庶務、企画などの事務がある。光州事務所のスタッフは現在7人であり、非常に少人数である。当初、25人ないしは30人の人員を配置する予定であったが、李明博政権に変わり、安全企画部から反対があり、この人数となっている。

光州事務所が管轄しているのは、光州広域市、全羅南道、全羅北道、済州である。

基本的な業務の遂行に関しては、大まかな方針を国家人権委員会の中央が定め、その方針に沿って、地域事務所が具体的な政策を立案し、遂行することとなっている。

2.業務内容

まず、重要な業務として人権相談を行っている。これは、人権専門相談委員や弁護士などが、地域を巡回し、人権侵害の予防や権利救済の実効性を計っている。人権委員会に認められている調査権に基づき、各種施設を巡回して、人権侵害についての相談を受け付けている。また、人権相談ホットラインも設置している。この人権相談をより効果的なものとするために、人権相談ネットワークを2006年に立ち上げ、領域別、地域別の相談を推進し、各機関での情報交換をはかっている。

また、矯正施設や多人数保護施設(高齢者や子どもの施設、さらには精神病院などの福祉的な保護施設)において、直接施設に収容されている人と対面して、申し立てを受けつける取り組みを進めており、矯正施設や保護施設における人権侵害の救済に努めている。これらの施設に、申し立て箱を設置し、面接できない時点でも、申し立てができるようにしている。

人権教育に関しては、教員や弁護士、人権活動家などから成る人権教育講師団を2007年に結成し、地方自治体の公務員、教員、福祉士などに対して人権教育を実施している。人権に関する感受性を高めるために、4ヶ月間にわたる人権教育プログラムを構成し、受講をうながしている。ただし、これらの人権教育に対して、公務員のなかには、身構えている人もいるようだ。

人権問題についての広報にも力を入れており、文化的な取り組みを通じて、市民の人権に関する感受性を高めている。2009年4月には、光州広域市、光州都市鉄道公社と連携して、人権テーマ駅舎を立ち上げた。

国際協力として、東南アジアの国内人権機関の地域協力をすすめており、相互に訪問して、交流を深めている。

さらには、人権状況の実態調査を2回実施し、それらの結果を踏まえて、当事者の困難や必要な支援の内容について検討し、条例制定や、実際の支援に向けた取り組みに結実したものもある。さらには、大学教員や弁護士、公務員・議員、NGOとともに、人権条例研究タスクフォースチームを設置し、地域における人権尊重の取り組みをどう進めるかを検討している。

これらの取り組みを実効的にすすめるためには、やはり人権委員会が他の国家機関から独立していることがきわめて重要である。しかし、人員の問題や予算の面で、行政安全部(日本でいう総務省)や企画予算部(日本でいう財務省)と交渉する必要があり、制約も多い。その意味では、やはり独立性を担保していくには、憲法設置の機関としていくことが望ましいであろう。

(文責:李嘉永)