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啓発部会・学習会報告
2001年3月24日

子どもたちの人権意識と自尊感情についての調査の概要

(報告)外川正明(京都市立松永記念教育センター)

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この調査は1998年に、京都市の小中学生対象に実施した意識調査である。人権教育の広がりの反面、人権教育が抽象的表面的な優しさや思いやりの教育だと考えられていることや、道徳心の教育に流されてはならないという問題意識があった。他者の人権に関する認識の有り様は、自分自身に対する認識の有り様(自尊感情)と深い関連を持つと考え、他者とともに自己をどう見ているかという観点で調査に取り組んだ。

調査の構造として、自己認識に関わる「自尊感情」、他者への認識の「人間観」「社会観」、人権侵害や差別に対する認識や判断としての「人権に対する認識」という大きな要素に分けられる。

結果としては、自尊感情の因子としての「自己有能感」「自己信頼感」は学年進行にともなって低下する。「勤勉性感覚」も下がり、中学2年生の30%が「自分は努力しても無駄」と感じている。「包み込まれ感覚」は3/4が感じていることに救われる。「社交性感覚」「同調性感覚」ともに肯定的な層が減少し、否定的な層の増加が見られ、自尊感情因子の平均得点をみても、学年進行とともに低下していることに注意が必要だ。

人間観に関わっては、「同質性の認識」は50%を超え、「多様性の認識」は学年進行とともに増加し、中学2年生では同質性と多様性のバランスが取れている。「相互依存関係」「他者への共感的理解」は小学6年生が一番高かった。

社会観に関わっては、「批判的思考」は成長に伴って社会を見る眼は厳しくなるが、社会を変えられるという「環境統制感」は減少する。自尊感情・人間観・社会観の3者の関係では、自尊感情や人間観の高い子どもは社会への批判意識などが高い、また自分に対する評価は下がるが、社会に対する見方は厳しくなるということが言える。この要素それぞれに関連が見られ、自尊感情の高い子どもは、人間観・社会観についても好ましい認識を持ち、人権問題の認識、解決への認識についても高い。

「人権侵害に対する態度−行動」では、「差別は許されない」が50%超えているが、「いじめられている人にも原因がある」という問に、多くの子どもがそう思っていることは問題だろう。「解決への姿勢」は、差別は許されないが「なくすことができる」という確信は弱い。「知識はあるが、あきらめ気分」といったところだ。

態度・行動の選択と人権意識の関係を見ても、自尊感情や人間観、社会観、人権の認識と子どもたちの具体的な態度・行動との間に関連が見られた。自分が人権侵害の当事者となる場合でも、積極的な選択をした子どもたちの自尊感情と人権の認識は高い得点を示した。相手を傷つけた場合は、あやまらない、気にならないという子どもたちの人間観・社会観は低く、「ニヒリズム」が見えてくる。

このように、自尊感情などの認識を高く持っている子どもは、人権侵害の場面でも積極的に行動し、逆に認識の低い子どもたちは、回避的・逃避的行動や無関心な態度を選択する傾向があった。

人権教育は、人権に対する正しい知識を伝えるだけではなく、自己の生き方をひとりひとりの子どもたちが獲得していく教育実践として推進されなければならない。<かけがえのない自己と他者>という認識・人権の認識は、人権侵害の場面で「おかしい」という意識を作り出し、その意識に人権問題の歴史的・社会的事実という知識が加わった時、その思いは確信や具体の態度となる。その態度や知識を行動につなぐためにはスキル(技術・技能)が必要となる。この認識・態度・行動を積み重ねが人権尊重の生き方といえるのではないか。 (椎葉正和)