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啓発部会では、生涯学習審議会が1998年9月17日に文部大臣の諮問に応えた「社会の変化に対応した今後の社会教育行政の在り方について」(答申)について、元木部会長に解説をお願いした。以下、事務局の文責で報告する。
1.社会教育法の改正へ
今回の答申は社会教育法の改正がポイントだ。社会教育法とは戦後民主教育の柱となった教育基本法の2年後、1949年に制定された。同年に制定された学校教育法の教育活動の範囲を除く、青少年及び成人の組織的な教育活動が社会教育の「範囲」であり、国及び地方公共団体はその「奨励」「環境の醸成」に務めるとしている。
ここでは、行政は関係する個人・団体に対して「助言と指導」は与えるが、「命令及び監督」「統制的支配」「干渉」を禁じている。これは戦前の文部省の教化政策への厳しい反省でもある。
また社会教育法には公民館、学校施設の利用、通信教育などに関する規定がある。続いて図書館法(1950年)、博物館法(1951年)が施行された。そういった社会教育行政全般が議論の対象となっている重要な答申である。これまでも臨教審をはじめ法改正の議論はあったが、抵抗が非常に大きかった。それはこの法律の精神の部分まで変えてしまう危惧からだが、今回の答申は全体としてその精神を変えてしまう内容ではないと考える。
2.答申を読む
今回の答申の特徴をまとめると、(1)地方分権、規制緩和(2)住民参加、多様な人材登用(3)総合的ネットワーク型行政、民間諸活動との協調という3点になろう。社会教育とは、インフォーマルな家庭教育とフォーマルな学校教育の間にあって、青少年から高齢者まで対象とする。それは「ノンフォーマル」な分野と理解されているが、それらの「統合」が求められている。
まさにユネスコのいう生涯学習であるが、いまだに社会教育を社会教育部局の仕事の範囲として狭く理解しようとする傾向がある。社会教育は、学校教育や家庭教育と重なりあいをもち、また今後は学校的なシステム(資格制度など)が広がっていくだろう。そして民間団体との連携が強まり、マルチメディアの広がりの中でより豊かな内容になっていくと考える。
しかし、問題点も指摘したい。(1)公民館行政への住民参加を担保していた公民館運営審議会の必置規定の廃止(2)公民館、図書館、博物館の職員規定の改正による教育機関としての質低下の可能性(3)いまだ価値を失っていない「青年学級振興法」の廃止、などがあげられる。日本社会教育学会としても審議会に慎重審議を要望した。受益者負担の問題も含め、当事者の視点からの議論が必要である。その意味からも、今回の答申に「成人学習に関するハンブルグ宣言」の反映が見られず、「平和」「人権」という基本理念が明文化されていないという問題は大きい。