はじめに
部落出身者に対する忌避・差別を軽減するためにはどのようなことが必要なのであろうか。
今回は、「接触仮説」の知見に照らし合わせ、これまで行われてきた意識調査項目の中でも部落マイノリティと部落外マジョリティとのつきあいに注目する。
1接触仮説とは何か
部落差別を発生させる重要な要素のひとつである偏見について、G.オルポートは「その集団に所属しているからとか、それゆえにまた、その集団のもっている嫌な特質をもっていると思われるとかいう理由だけで、どの人に向けられる嫌悪の態度、ないしは敵意ある態度である」と述べている。
そうしたマイノリティに対する偏見を解消するための方法として、最も有力仮説となっているのがオルポート自身が提唱した「接触仮説」と呼ばれるものである。「接触仮説」とは、相手に対する知識の欠如が偏見形成に関わっているために、異なる集団間の成因が接触することにより両者の関係がむしろ改善されるとするものである。ここでは、集団間の友好関係、すなわち部落外マジョリティの部落マイノリティとのついあいの有無と程度が、部落マイノリティ集団に対する忌避的な態度にどのような影響を与えるのか、各種データを用いて検討する。
2部落マイノリティに対する接触
まず、「接触」に関する項目を取り上げ、忌避的態度とのクロス集計が行われている調査報告書の検討を行った。福岡県で1977年に行われた「同和問題についての意識調査」をはじめ、「2000年度京都市人権問題に関する意識調査」をみても、同和地区住民と親密なつきあいがある人ほど忌避的態度は少なく、接触度がある方が良好な人間関係を帰属すると回答しており、逆に、接触がない場合には良好な関係を継続したいと答える割合が極端に少なくなる。つまり、接触仮説は概ね支持されることになる。
3「接触仮説」と部落問題
ただし今回の報告では、オルポートが指摘した接触の際の最適な条件について、厳密な検討を行っていない。
しかし、「無知は偏見を助長する」可能性が高いことから接触仮説に基づいて、学校における同和教育の取り組みや地域のまちづくり運動などの効果を測定する実証的な研究が必要となる。
そして、接触仮説の問題点で最も重要なのは一般化の問題である。つまり個人に対する態度変容は集団に対する態度変容になるのかという問題である。ブラウンは集団間接触のモデルとして「脱カテゴリー化」「再カテゴリー化」「カテゴリー化の顕現性の維持」の3つの段階に分け、「脱カテゴリー化」や「再カテゴリー化」では、集団に対する偏見は解消しないことから、カテゴリーをとどめながら、効果的な接触を促すことを提唱している。
たしかに、部落マイノリティを集団として認知することは、過度の一般化をもたらし、ひいては差別を生み出す危険性も有している。しかし、個人としての「脱カテゴリー化」や同じ人間という「再カテゴリー化」では集団に対する差別は軽減しない。集団として存在することを承認するプロセスが必要なのである。部落出身という属性を顕在化した上での「接触」は、そうしたプロセスの第一歩なのである。
5まとめ
今回の報告を受けて、啓発部会では、主にブラウンが指摘する接触仮説におけるカテゴリー化の問題が大きな議論になった。「脱カテゴリー化」や「再カテゴリー化」の段階での啓発活動を行うのではなく、やはりブラウンのいうように、やはり集団として存在を互いに容認できる社会に向けての啓発活動が必要なのではないだろうか。