結婚差別の問題は、部落差別の中でも最も厳しいと言われている。今回の啓発部会ではいわゆる「通婚は一貫して増加しているが、結婚差別は減少していない」ことを報告するとともに、結婚差別を発生させる原因について、結婚のメカニズムそのものに関する原因を検討する。
通婚について、昨今、2000年の実態調査などによる大阪府の通婚率データをみると、夫婦とも通婚カップルが自己認知類型で35.1%、出生地類型41.2%と1982年の25.9%などのデータと比べ大幅に増加しており、結婚差別は減少したかにみえる。
しかし、同じく2000年の大阪府調査において、自分が同和地区出身だと認知している層(3713人)だけを抽出して「結婚破綻経験がある」と答えた人を見ると、744人で全体の20.0%、「そのうち同和問題関係している」と答えた人は、377人で45.3%になる。すなわち、部落出身であることを自己認知している人の中で結婚差別を経験したという人は9.8%にのぼるのである。結婚破綻経験者(同和問題関連)の年齢別回答状況を見ても一貫して3割が関係していると答えており、結婚差別が減少しているとは言えない。
通婚が増えた要因を整理すると、ひとつは結婚形態の変化があげられる。都市化、核家族化、個人化の進展により、「恋愛結婚」が増大し、その結果として通婚が増加した。2つ目には部落の就労構造の変化があげられる。1960年代の高度経済成長によって若年労働力不足の深刻化のもと、若年層を中心に安定的な職業に就く者が増え始めた。恋愛結婚カップルの出会いのきっかけになるのは、職場が多く、安定的な就業の結果として通婚が増大したと考えられる。最後に「あからさまな」忌避態度の減少があげられる。1968年の大阪市の調査では、「自身もしくは子どもが部落出身者と結婚する場合」はっきりと「結婚させない」と答えた割合が31.6パーセントにのぼっていたのである。
かつて家柄の釣り合いを重視する「見合結婚」は、部落内どおし、部落外どおしの結婚が前提としていた。とすれば結婚差別はむしろ、恋愛結婚の増大に伴って顕在化したのではないか。
続いて、結婚忌避・差別の要因を考えてみると、おおきく二つの要因が考えられる。ひとつは部落問題に関する要因、もうひとつは配偶者選択のメカニズムに起因する要因である。部落問題に関する要因においては「家意識」「偏見」(Racism)などが議論されてきたが、ここでは、新たに配偶者選択のメカニズムの要因を中心に考えてみる。
配偶者選択の原理には、配偶者選択に社会的な制約がある「内婚」や、配偶者選択の際できるだけ類似した傾向を求める「同類婚」がある。現代日本の内婚・同類婚傾向としては、職業階層・経済階層・学歴階層などによる階層内婚の傾向が強い。そのため、高階層による低階層への忌避意識が働き、高階層の方が結婚忌避をする可能性が高い。また、一般的に「幸せな結婚」としてイメージされるものは、結婚後の生活の「安定」を意味するものと考えられる。
そこには家族関係における「安定」、経済的な「安定」、子育てにおける「安定」が含まれるが、逆に言えば「望ましくない(不幸な)結婚」としてイメージされるものもある。すなわち、差別される可能性を包含する何らかの「不安定」を伴うマイノリティとの結婚は、マジョリティの結婚相手としては望ましいものではない。結婚忌避は、マジョリティにとっては合理的な状況判断に基づいた行為と考えられる。
とはいえ、現代においては、個人化を主な原因として、パーソナリティ要因が配偶者選択の条件として最も重要とされる。家意識の低下、個人主義意識の拡大、2人の愛情に基づいた結婚増加が、部落外マジョリティと部落マイノリティの通婚増加傾向を強力に推進したと考えられる。
以上の点から通婚は増加したが、差別は減少していないことがわかる。また、結婚差別を減少させるためには、部落問題に関わる要因のみに注目するのではなく、配偶者選択のメカニズムの変革にまで言及する必要がある。
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